『男たちの旅路』「別離」その1


男たちの旅路 第3部-全集- [DVD]

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以下ストーリーである。



 陽平(水谷豊)は悦子(桃井かおり)のことが好きである。海岸で陽平は悦子に言う。「結婚してもいいと思ってるんだ」しかし悦子にはその気はない。
 はぐらかされた陽平は、吉岡司令補(鶴田浩二)に、悦子との仲をとりもってくれるように頼む。吉岡は悦子をレストランに呼び出し、陽平の気持ちを伝える。「悪いけど、断ってくれますか」と悦子。「何かわけがあるんじゃないのか」と問う吉岡に対し「今日、アパートに帰りたくないの。泊めてください」と悦子は言う。


 ただならぬ様子に、吉岡は自分のアパートに悦子を連れ帰る。悦子は、自分が病気だと吉岡に告げる。「赤血球がね」「うん?」「足りないんだって」「どういうことだ?」「自分で新しい血を作る力がなくなってるって言うの」そして悦子は吉岡に迫る。悦子は吉岡を好きだったのだ。



 「何故私を泊めないの? 私がいいって言ってるならいいじゃない」
 「人にはそれぞれ生き方がある」
 「格好いいこと言って。結局臆病なのよ。私がしつこいと困るからでしょ? 私がお金せびると思う? それとも、結婚してくれなんて言い出すと思う? それとも、司令補って女嫌い? 女になんにも感じないのかしら?」
 「私はもうたしなめる年齢だ」
 「人が、人がどんな思いで、泊めてって言ったと思うのよ? 帰りたくないのよ。ひとりのアパートへ、暗いアパートへ、帰りたくないのよ。つまらない、常識みたいなことばっかり言って。人の淋しいことなんか全然わからないで」


 結局吉岡は悦子を自分の部屋に泊める。翌日、陽平が吉岡のアパートを訪ねてくる。そこでアパートの布団の上に棒立ちになっている悦子と、なんと鉢合わせてしまう!
 「陽平、いいか、待て。誤解するな」
 ショックを受けた陽平は吉岡に殴りかかり、その場を走り去る。



 吉岡は病気の悦子を自分の力で看病しようとする。他人から悦子を隠そうと、悦子を別のアパートに移し、悦子のもとへ通う。病院に付き添い、献血をする。「同じ職場の女を囲っている」「仕事の手を抜いている」という噂が飛び交うなか、無理を重ねた吉岡は疲労がたまり、仕事で大きなミスをしてしまう。辞表を提出しようとする吉岡を、社長の小田(池部良)は小料理屋に誘う。
 「抱いたかい?」と小田。
 「いいえ」と吉岡。
 「なぜ抱いてやらん。そんな淋しい話があるか。病気だけ治してやるなんて、そんな馬鹿な話があるか」
 「入院してるんです」
 「じゃあせめて結婚の約束をしろ。その子も、それを待ってる筈だ」
 「若い娘です。元気になれば、気持が変わるかも知れない」
 「そんなことは知ったことか。溺れてやせんじゃないか。分別でがんじがらめじゃあないか」
 「溺れてます。この私が、仕事が手につかなかったんです。淋しがってやせんか、不自由をしてないか。腑抜けのようになって、あの娘のことばかり考えていたんです」



 悦子の病気が悪化する。内臓出血をして危ない状態になる。輸血の必要があるという吉岡に、警備会社の面々が病院に参集する。治療室で吉岡は悦子に面会する。


 「悦子。悦子」と吉岡。
 悦子は漸く目をあける。
 「頑張るんだ。みんないるぞ。みんな悦子頑張れって、言っているぞ」
 「駄目らしい」
 「何を言う」
 「どうして死ぬって屋上で言われたね。殴られたね。あの時は、死のうと生きようと、たいした違いはないような気がしてたのに」
 「あまり口をきくな」
 「生きたいわァ」
 「当たり前だ。諦めたら駄目だ」
 「本気で生きたいって思うまでに手間がかかったわ。特攻隊の頃とちがって、いまは手間がかかるのよ」
 「わかった。つまらんことを言うな」
 「ごたごた嫌なこと一杯あって、スカッと生きたいっていうふうにならないのよ」
 「そうか−(黙らせたくてうなずく)」
 「スカッと生きたいと思ったら、死ぬ時だなんて、そんなもんかもねえ」
 「死ぬときなもんか」
 「でもまだ、私歪んでいるのかもね。こんな年の離れた司令補、好きになっちゃったんだもんなあ」
 「(無理に苦笑し)くさるようなことを言うな」
 「でも、本当に好きなのよ。本当に好きになっちゃったんだもんなあ」
 「悦子」



 「司令補も好き? 私を好き?」
 「一緒になろう。元気になったら、一緒に住もう」
 「とうとう」
 「悦子」
 「言った。やっと言った(笑うような泣くような声を出し、涙が溢れる)」
 「悦子」
 「(泣いている)」
 「悦子」


 吉岡は失踪する。がらんとした吉岡のアパートを訪ねる陽平と壮十郎。
 そこには何も残されていなかった。



 「水臭えじゃないか。俺たちに一言もなしかよ」と陽平。
 「余裕がないんだ。俺たちに口を聞く余裕がないんだ」と壮十郎。


 特急列車にひとり乗っている吉岡をカメラはとらえて、ドラマは終わる。




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