そして活性化の時代へ

 

こちらは2000年以降の徳島県高校演劇の状況を綴ったもの。「徳島県高校演劇70年のあゆみ」は、本年度秋の県大会時に会場に並ぶ予定です。

 

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    そして「活性化の時代」へ
                      古田 彰信

 ゼロ年代の動向

 徳島県の高校演劇は、他県と異なる独自の進化を遂げた。浅香・紋田が拓いた伝統を受け継ぎ、創作脚本の割合が非常に高く、個性的な作品が継続して生み出されてきた。また社会に対する批判精神にあふれた作品が多く、それらの点において顧問の果たした役割は大きい。
 2000年、当時、県高文連会長、県高演協会長であり、城東高の校長だった浅香寿穂は、阿波農の田上二郎を城東高に迎えた。2004年開催の徳島全国大会にむけての配置である。人不足と多忙のなか、田上事務局長をリーダーとして、攻めの運営準備が行われたが、その過程で、徳島の高校演劇は活性化していく。
 田上がまず取り組んだのは仲間づくりだった。少子化の影響で他県の演劇部数が目に見えて減少するなか、徳島県大会の出場校は、1990年後半の12~13校から、2003年に17校まで増加した。2000年からは「文化の森演劇フェスティバル」、また「高校生戯曲コンクール」や、大会前の劇作研究会が毎年開かれ、上演や観劇、批評の機会も増えた。大会準備や運営、講習会などをきっかけにして生徒や顧問の交流が活発になった。顧問の劇作研究会は、毎年朝方まで議論が続いた。
 県大会審査員も、プロ演劇の第一線で活躍する著名な演劇関係者を呼ぶことが多くなった。四国ブロック全体も活気づいていた。「四国高校演劇祭」の開催(2000~)や、四国学院大学演劇コースの設置(2003)などをきっかけに、四県の交流が本格化した。2000~2003年の間に、川之江「ホット・チョコレート」(2000)、同「七人の部長」(2001)、丸亀「どよ雨びは晴れ」(2003)と、全国最小の四国ブロックは全国最優秀を三回獲得した。
 高校生や顧問は県境を越えてプロの上演や上位大会に積極的に足を運び、ノウハウや技術を吸収した。1990年代なかばからはじまった近畿総合文化祭の演劇部門への代表校派遣も引き続き行われた。こうした刺激も、徳島の高校演劇の活況につながった。
 その後、上演校数に増減の波こそあれ、田上の熱と方法論は、その後の事務局長(茅野克利、吉田道雄、吉田晃弘)に引き継がれ、高校演劇は、さらに盛況を呈していく。とくに近年の傾向として特筆すべきは、有力校以外でも顧問が本格的に創作に取り組むなど、演劇的にもテーマ的にも、問題意識の高い作品が並び、高い達成を成し遂げるようになった。とくに、2018年の第70回大会は、表現技術の底上げもさることながら、すべての作品に、現実と向き合い、高いレベルで芝居づくりに格闘した跡が見られたことに感心した。ややもすると、今やすべての演劇部が、野心的で、入れ込んで芝居作りに励んでいるのが徳島の現状である。

 2000年以降のおもな顧問の動向を記しておく。全体としては、多くの顧問が作品を重ね、経験にもとづくテクニックが蓄積され、作品的にも質があがり、さらなる円熟が見られるようになってきた。
 田上は、ゼロ年代の県高校演劇を牽引したのみならず、書き手としても多数の作品を残した。その活動は、1980年代後半からはじまり、1990年代の代表作としては鳴門工「MИP」(1991)、海南「神のいない三つの部屋」(1993)等、高校生に高い技術と精神を要求する、実に緻密な作品を発表し、2000年以降は高校生に寄り添いながら、多様な作品を残した。とくに2004年の徳島での全国大会では、阿波「子供の子供と子供たち」、城東「幽霊部員はここにいる」の二作品が代表として上演されるという前代未聞の快挙をなした。他にも阿波「よみがえる山形」(2001)、城東「マイナスイオン」(2002)、小松島「補習授業は暑くて長い」(2012)をはじめ、秀作を継続的に発表した。また今昔の演劇に精通し、劇作研究会でも多く発言し、県高校演劇の理論的な大黒柱として批評水準の向上にも貢献した。
 小規模校や支援学校に転勤しても、それぞれの場所で演劇部を興すという、演劇活性化の範を教員人生を通じて粘り強く示し続けてきた紋田正博は、今までの勤務校と同様、阿南養護ひわさ分校、その後2003年からは城西高に異動すると、生徒を集めて演劇部を立ち上げ、2007年の定年まで活発に活動し、前衛的な「紋田劇」を発表した。とくに阿南養護ひわさ分校「マジメにヤレ」(2001)、城西「あすべすと」(2005)は、卓越した身体性と祝祭性を生かした類例のない演劇表現が高く評価され全国大会にも出場した。
 富岡西「破稿 銀河鉄道の夜」(2004)で県最優秀となった古田彰信は、2006年から城北高へ転勤した。生徒創作を生かした城北「またあしたっ」(2011・2012・作者はタカギカツヤ)をはじめ、最近では城北「さらに、めっきり嘘めいて~Love&Peace~」(2015)、城東「暗渠」(2016)など、部の状況や社会状況を受けてさまざまな高校演劇の可能性を模索している。
 城南高で長く顧問を続けた善本洋之は、チャンバラや特撮ドラマ・格闘技等の要素を取り入れた娯楽的スタイルを貫き、大会での観客動員は常にトップであり続けた。どの作品も観客席を大いに沸かせたが、「餓武羅~血を吸う南蛮船~」(2010)では四国大会にも進出した。
 音楽への造詣を作品に取り入れ、饒舌な語り口とは裏腹に、現代社会が置き忘れてきた戦争などの逸話を一貫して掘り起こしてきた坂本政人は、最優秀・舞台美術・創作脚本の三冠を制した鳴門第一「kadenz!」(2006)をはじめ、「Out Take」(2008)、徳島市立「INTERLUDE!!」(2011)が県最優秀に選ばれたほか、他の作品も審査員から高く評価された。
 哲学的で現代アート的美学に彩られた、高校演劇の在来の文法には類例のない「高校演劇の極北」といった作風を貫き通してきた大窪俊之は、年々「演劇的上手さ」を増し、城ノ内「エバラ日記」(2007)で四国大会、「三歳からのアポトーシス」(2012)ではついに全国大会に出場した。高校演劇としては異質で先鋭的な表現に、全国大会上演後の長崎のホールは大きくどよめいた。
 生徒の持つ雰囲気を上手く生かした学園ドラマに定評のある斎藤綾子は、粘り強く転勤先の演劇部を勃興し、池田「破稿 銀河鉄道の夜」(2000)、同「My Friend No.nine」(2001)、富岡西「十七音」(2007)などを県最優秀に導いたほか、水産「Let's go 大浜海岸」(2005)などの高校生の勢いを感じさせる秀作を残した。

 2010年代以降の動向

 2010年代以降は、さらに若い顧問の台頭が目立った。海部「ジャムにいさん~メタめた坩堝ん と私」(2010)で県最優秀を得た吉田道雄は、世界を重層的にとらえ、誠実に思考し、現代の社会や学校でどう生きるべきかを問い直す作品を発表した。城の内「杏の日記~踊り手と読み手の両の手は言の羽」(2018)、同「ことりのがっこう」(2019・作者はリトル・バーズ(@受験いやすぎる))は、論理性・思弁性・文学性などのバランスもよく手練れた作品で、俳優も生き生きと映え、上位大会へ進んだとしても遜色ない仕上がりだったと思う。
 海部高で吉田道雄の後顧問となった生垣千尋は近年実力を蓄え、地域性豊かな海部高校の生徒の素の部分をうまく生かし、生活実感の伴ったセリフで綴った言語感覚豊かな作品を相次いで発表し、「プテラノドンは何思う」(2016)、「片道7キロ 40分」(2017)で2年連続四国大会へ進出した。
 阿波「ぷりうすなんかこわくない」(2010)以降、巧妙な作劇などで注目されていた吉田晃弘は、阿波「ハムレット・コミューン」(2014)、同「2016」(2015)で県最優秀を得て、それぞれ春の全国大会・夏の全国大会に出場した。いずれも、野心的なセット、喜劇スタイル等、見せる演劇でありながら、学校の「教育」の射程におさまらない社会的テーマや日本の現実の暗部が反映された問題作であった。城東高に異動してからの「スパゲッティフィケーション」(2018)、同「となりのトライさん!」(2019)では、さらに洗練を深めている。また後に県高演協主催になるアエルワ演劇祭(2015~)を主宰・発展させた。
 近年もっとも充実しているのは村端賢志である。富岡東羽ノ浦校で「避難」(2012)、「夜帰」(2013・原案川瀬太郎)と2年連続県大会最優秀を得ると、徳島市立高へ転勤後、「どうしても縦の蝶々結び」(2016、林彩香作,村端は構成)、「夕暮れよりもまだ向こう」(2017・下窪摩耶との共作)、「ユメちゃんはいつも不機嫌」(2018・中田夢花との共作)、そして生徒創作の「水深ゼロメートルから」(2019・中田夢花作)と4年連続県大会最優秀に選ばれた。高校生の陽の当たらない生活場面を舞台に、居場所がない人たちの葛藤を繰り返し描いている。巧妙に計算された舞台美術、心の動きを丁寧に拾う演技等、高い次元でバランスよく精緻に作り込まれて、完成度も高い。徳島市立高へ赴任してからは、高校生の芝居づくりを支援するというスタイルを確立し、いずれも成功をおさめている。とくに中田夢花は、「水深ゼロメートルから」では浅香寿穂賞を独力で得たほか、大人の中でも活躍できるほど在学中に大きく成長した。
 他、城東高・脇町高で顧問をつとめ、別役実的演劇を指向して独自の世界を構築した茅野克利は、城東「来る」(2011)で四国大会に進出し入賞した。また、紋田正博の方法論の後継者であり、2014年から2018年まで富岡西の演劇部を指導した岡本紳も、独自のスタイルを模索し「Typhoon!」(2016)、「Youth!」(2017)で浅香寿穂賞を受賞した。杜穂隆、前田由美子、澤光太郎の各氏も創作を始めており、今後の展開が期待される。
 以上、顧問にスポットを当てて21世紀の高校演劇を回顧したが、前述の中田夢花以外にも、県最優秀を受賞した城東「おくる」(2009・茅野克利との共作)の作者である志田真奈美、城北「またあしたっ」(2011・2012)の作者であるタカギカツヤ、浅香寿穂賞を受賞した城南「二十億光年とちょっとの孤独」(2018)の作者である山田陣之祐をはじめ、高校生も大きく育っていることも忘れてはならない。
                         (書き下ろし)