広い世界を見ようぜ■■金城一紀「GO」感想

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勤務校の図書館が発行している「Library News」2021年10月号に、原稿を書きました。

7~8月に「高校生に贈る人権図書フェア」と言う展示をしたので、その流れで、金城一紀「GO」を高校生に向けて紹介しました。

 

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  広い世界を見ようぜ

 

 みんなは本を読むだろうか。
 本は広い世界を見せてくれる。知らないことを教えてくれる。買えばお金がかかるけれど、図書館ならタダで読める。
 7月に図書館で「人権フェア」のコーナーを作ってもらった。住井すゑ橋のない川」などの名作から、昨年度講演に来ていただいた「せやろがいおじさん」の本まで並べてもらった。展示はもう終わってるけれど、本はちゃんとあるので、みんなが来るのを待っている。
 司書のN先生に「マンガの「ゴールデンカムイ」はアイヌ文化を学ぶのにとてもいいですね」と言ったら、な何と、サッと買ってくれた! とても嬉しい。これ、面白いのでとくにオススメ。マンガだから手軽に読めるし(ちょっとグロだけど)。
 N先生は「せっかくだから、ライブラリーニュースに、人権の本について、何か書いてくださいよ」と、ニコニコしながらおっしゃる。「やりますよ」と二つ返事で引き受けた。
 いい本を紹介するのは楽しい。「人権フェア」に置いてあった本は、どの本もとてもすばらしいのだけれど、その中から今回は、金城一紀「GO」を、今日は皆さんにすすめることにする。

 

 「GO」金城一紀 ★★★★★
 高校生の主人公が女子に出会って成長していく恋愛小説、と書けば、よくある話だと思うだろうが、これがどっこい、主人公が「在日韓国人」というところがミソだ。差別や分断、疎外感や葛藤が通底に流れてて、10代がとてもリアルに描かれている。
 主人公はケンカが強い。プロボクサーだった父親からボクシングを教わってきた。小学校時代のトレーニング中のセリフが忘れられない。左腕をまっすぐ伸ばして、グルっと一回転させられた主人公に、父親は言う。「お前の拳が引いた円の大きさが、お前という人間の大きさだ。手が届く範囲のものにだけ手を伸ばしていれば、傷つかずに生きていける。円の外には手ごわいヤツがいっぱいいる。殴られりゃ痛いし、殴るのも痛い。それでもやんのか、円の中にいる方が安全だぞ(大意)」
 マイノリティの側にいて、傷つきながら前に出て、つかもうと衝動的に手を振り回す。回ってこないボールを、自分の未来を、最愛の人を、幸せを手に入れるために。腕っぷしこそ強いけれど、ちゃんと傷つきもする主人公の切実さや苦しみが痛いほど伝わってきて、僕は泣けたし、その生き方にあこがれる。
 この小説、十代にこそ読んだ方がいい。壁にぶつかる主人公の姿の向こうには、狭い価値観や社会のシステムにとらわれて、流されがちな僕たちの姿が見える。差別や同調圧力がいたるところに見られる社会で、どう生きていくべきか、その「構え」を教えてくれる。その「構え」とは「俺は俺」。そう、俺は俺だ。
 人を気にして、すくんでばかりのわれわれは、狭い枠の中で飼われている羊のようなものになっていないか。群れの羊に一番見えていないのは、実は「自分」なのかもしれない。
 「GO」の主人公は、恋人の勧めで多くの本を読む。本は世界を見せてくれる。図書館で本を借りて読むことも、円の外にある何かをつかみとることだ。ケンカはしなくてもいいから、みんな、図書館へ行って、広い世界を見ようぜ。(了)