内田樹「映画の構造分析」
晶文社 ¥1600
面白いと思ったことなど。
映画には「それが何を意味するのか分からないもの」が映りこんでいる。それは意味に敵対するものではなく、それこそが私たちを解釈へと動機づける、意味生成の動力である、という指摘。
つまり、よくできた、ウェルメイドな映画は、解釈へと我々を誘うことがない、という意味において、退屈な映画である。
反対に、へたくそで穴だらけの映画こそ、我々を解釈へと誘う、「極めて興味深い映画」ということができるかも知れない。
もちろん、僕が興味をもつのは、後者の方である。
保坂和志「書きあぐねている人のための小説入門」に、「風景を描くというのは、心理テストに答えるようなもの」という一節があった。こうした考えで風景描写を書くのは、読者を解釈に誘うという意味で、大変効率的な書き方だと思うのである。
また、本書では、「映画は映画単体としてだけではなく、多くの人が映画について繰り返し語る、といったような「観客の参与」を含めた形で社会に根を降ろす」という指摘がなされている。観客の解釈の照り返しがあって、「作品」というのは形をなしているのかも知れない。