選挙ウォッチャーになった

昨年度勤務していた高校の校誌に寄稿した。高校生向け。

執筆は2023年11月です。

 

選挙ウォッチャーになった

                       古田彰信

 

 皆さん、お元気ですか。昨年地理を教えていたフルタです。県庁の、教育委員会人権教育課というところにいて、学校や先生をサポートする仕事をしています。一日じゅう、机に座って、書類を作ったり書類を作ったりして、事務仕事の苦手なフルタは、ああ、性に合ってねえよなあと(笑)思ったりしています。


 四十年間、ずっと学校が居場所でしたから、今でも「教師として何ができるか」という考え方が抜けません。DVDを録りためているのも、いつか学校で使うためだし、イベントや研修で新しいことを学ぶと、ああ、これを生徒さんに話せたらいいのに、などと、ふと考えてしまいます。


 さて、選挙ウォッチャーの話です。きっかけは「シン・ちむどんどん」というタイトルのドキュメンタリー映画を、たまたま観たことからでした(興味のある人は、ぜひネットで検索して下さい)。知る人ぞ知る二人組、ラッパー(ダースレイダー)&芸人(プチ鹿島)が、沖縄知事選を突撃取材する、という内容の映画です。


 突撃取材と言っても、どの候補者に対しても、分けへだてなく拍手なんかして、フレンドリー、のんびり公平でニュートラルな感じなんですね。ああ、こんな選挙の関わり方もあるんだな、新鮮だな、これなら、自分にもできるかも、と思ったのですね。


 選挙に関して、教師や公務員は、法律に縛られてて、できることと、できないことがあります。たとえば、生徒さんに、特定の候補者の演説を「勉強になるから聴きに行け」とか言うのはダメです。でも、一方だけヒイキにするんじゃなくて、公平に扱えば問題ないんですね。特定の候補者の演説を「聴け」はダメだけれど、候補者の演説を分けへだなく「聴け」はオーケー。


 選挙へのかかわり方を工夫することで、高校生に政治に興味を持たせるきっかけにもできる等、教師にできることを広げて示せる経験になると思ったのですね。

 

 演説を聞いて回った

 

 ちょうど一〇月、参議院徳島高知選挙区の補欠選挙がありました。立候補は二名。自民党公認保守系の方と、野党が支援する無所属の方の一騎打ちでした。時間がズレていたので、早速、両方の候補者の出陣式・出発式をハシゴしてみました。

 

保守系陣営の出陣式(左)と野党系陣営の出発式(右)

 

 写真で見れば分かるように、両陣営の雰囲気は、まったく違うものでした。保守系の陣営は、スーツ率が高く、警備も物々しい。聴衆も多く、大型トラックの荷台のひな壇には、国会議員や市長・町長がズラリ。候補者本人は、高知で出陣式ということで、代わりに妹さんが来てました。


 一方、野党系の陣営は、ワンボックスカー上からの演説で、こじんまりして少ない人数でした。駅前ということもあってか、聴衆が流動的で、支持者の他、通勤の人や高齢者の方などが足を止めて話を聞いていました。こちらには本人も来てました。


 演説会、辻立ちなどのスケジュールは、SNSをチェックすれば分かります。その場に行けば、政治家と直接話のできることもあります。「政治は誰がやっても同じ」決してそんなことはありません。少し足を止めて話を聞けば、何を考えているか、どんな人なのかも分かります。

 

 ダメな演説 心をうつ演説


 選挙終盤、ある有名な政治家が応援に来ました。あいにくその日は雨でした。物々しい警戒で、ボディチェックの後、聴衆は狭い区域に詰め込まれて、傘のせいで話者の姿も見えませんでした。司会は「拍手」と絶叫口調で盛り上げようとしてましたが、傘で手がふさがり、拍手はまばらでした。冷え冷えとした空気でした。


 そんななか、大物政治家が登壇しました。彼は、雨の中の聴衆に、ねぎらいの言葉ひとつかけることはありませんでした。明瞭な言葉で聞き取りやすいけれど、抽象的で大所高所からの「力強い」話ばかりで、いまの私たちの目の前の不安への答えは、残念ながら聞けませんでした。隣に立った候補者が、ちょっと気の毒に思えました。


 聴衆の中に高校生も多くいました。こうした空気を、当たり前のものとは思わないでほしい、いろいろな他の人の演説も聴いてほしい、誰に投票してもいいけれど、この演説だけで決めずに、他の人の話をもっと聞いて決めても遅くないんだよ、と無性に言いたくなりました。

 

 ナマの演説からは、人となりや、スタンスが、伝わります。その人が聴衆と向き合う姿が、国民と向き合う姿勢です。演説は、ぜひナマで聴いた方がいい、そう思います。


 今回の補欠選挙の応援演説に来た人で、よりよい私たちの社会を作るために、必要なマインドセットや政策を、具体的に、切々と熱く語りかける人がいました。個人的に話もしました。そういった人の言葉には、心を動かされたし、希望を感じました。

 

 あなたが醒める必要はない

 

 選挙は熱伝導とよく言われます。渦中にいると、光と熱が伝わります。確かに投票率は過去最低で、惨憺たるものでした。でも、皆が冷笑的で醒めきっているわけではないのです。さらに言えば、周りが醒めているからといって、あなたが醒める必要もない。


 光と熱は、人から人へと伝わり、数になります。それが社会を変える力なのです。そうした実感や、変えていった経験があれば、政治を信じることができるし、いろいろな人たちと連帯することもできる。光と熱を持ち続けることができると思うのです。


 選挙ウォッチャー、なかなかよかったですよ。こんなフルタの熱が、遠く離れた皆さんに、どうか伝わりますように。ピース。