「SIGHT」2013年春号「内田樹×高橋源一郎/「日本の春」よ、来い」

衆議院選挙東京第25区の候補者に会って質問できるか やってみた


 ひとりでもできることがある。「ひとりでもメディアになりうる」ということを思い起こさせてくれる動画。オイラは、なんとなくだが「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」というアメリカ映画を連想した。


 この動画のことを知ったのは、「SIGHT」2013年春号の内田樹氏と高橋源一郎氏の対談を読んで。高橋源一郎氏は、この話を聞いて「虚を衝かれた」と言っている。
 これまでの政治が中間共同体を壊していったから、それをもう一度作り直していかなければならない、おそらくそれが社会を変えるためのメインの方向性だと思うし、オイラもそのつもりで学校で悪戦苦闘している。だが、ひとりでもやれることもある。彼が行動することで、政治の本質的な部分が確かに見えた。この成果に、高橋氏は「虚を衝かれた」のだと、オイラは受け取った。


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 (以下引用。120〜121ページ)


高橋 それともうひとつ。ひとりで何かやる、っていう選択肢もあり得ると思うんだ。この前、「atプラス」って雑誌(太田出版)に載ってた、大塚英志さんの記事で初めて知ったんだけど(2月発売の15号)。彼の教え子だった青年が、東京都第25選挙区の候補者全員お事務所へ、会いに行ったんだって。


内田 へえー!


高橋 このドキュメンタリーがYou Tube上に載ってる。それを観て思わずもらい泣きしました、感動的で。この青年は少し引きこもりっぽくて、大塚さんの教え子なんだけど、途中で辞めちゃって。人付き合いが苦手で、アルバイトも辞めちゃう。非常にシャイで、典型的な社会に適応しにくい青年なんだけど。その青年が、何か社会の役に立つことをしたいと思い立って、何ができるだろうと考えた。最初は市議会議員の候補者に会いに行って、質問をして、それを全部自分で撮って、YouTubeにアップした。これを東京25選挙区でやったんだね。全部で14分半くらいにまとめてる。で、ほとんど拒否されるわけ。門前払い。


内田 それを撮ってるわけ?


高橋 撮ってる。だから会ってもくれない。「こう言われました。はぁ……」とか言って。共産党の候補者だけ、全部答えてるんだけど(笑)。


内田 はははは!


高橋 ちょっと共産党の宣伝になってるんだけど、これがまた、その人がしゃべりすぎるくらいしゃべってて、ちょっとうさんくさく感じるぐらいなんだけど(笑)。それでひとつひとつ、民主党とか、未来の党とかを訪ねていく、「あとで返事をします」って言われて、「返事が来ませんでした」ちか。「マスコミじゃないから会わない」って言われたりとか。相手にワーッて言われると、この青年は、心身に病があるんで手が震える。それから、撮ってとカメラがあんまりよくないみたいで、風の音がビュンビュン入っているわけ。で、14分半観終わると、「はぁ…」ってなる。


高橋 すごく感動的なんだよね。これを観て、大塚さんは柳田国男の話を書いてる。柳田国男は、みんなで考える仕組みを作らないと、この国の選挙はよくならないと書いたそうです。庶民もまた「空気」に流される。日本人の中には、個で動けない体質がある、これが日本人にとって根本問題だ、と書いてる。ほんとにどこにでもいるひとりの青年が、誰に頼まれたわけでもないのにひとりで行って、門前払いされるっていうのは、既存の社会政治システムでしょ?


内田 うん。


高橋 ひとりで行くとはじかれる。みんな実はそうなんです。という様子を、具体的に見せてくれた。こういう人が各選挙区にひとりいたらすごくない? みんながこれをやるようになったら、たぶん断れなくなると思う(笑)。


内田 なるほど!


高橋 全部相手して話さなきゃいけない。で、話すと、その人が何を考えているかが分かる。だから、ひとりでできることがあるな、ってほんとに気がついたんです。


内田 いい話だねえ!