原発に行く
二日続けて遠出。3月30日、四国で唯一の原子力発電所である伊方原子力発電所に、勤務校の社会問題研究会の生徒5人と、同僚のO先生と一緒に行ってきた。
地震と福島第一原子力発電所の事故は、本校の高校生にも衝撃をもたらした。事前のミーティングでは、この機会に原子力発電について学習したいという声が圧倒的に多かった。しかし火力発電所なら県内にもあるが、原子力発電所は四国には愛媛県伊方町にしかない。それならば、ということで、今回の遠征と相成った。
それにしても伊方原子力発電所は遠い。オイラの学校は徳島市。四国の東端から、四国の西端、愛媛県伊方町までは、車で4時間30分。とくに松山から向こうは、無料高速と一般道の旅。体感時間は広島へ行くより遠かった。
週刊ダイヤモンド2011年3月26日号の「緊急特集/列島激震」というページに、「原発トラブル危険度ランキング」「原発耐震性危険度ランキング」「原発立地危険度ランキング」が掲載されていた。伊方原発は、原発立地危険度ランキングでは、浜岡原発に次いで2位、、原発耐震性危険度ランキングでは、なんと一位だった。こうした指標に説得力があるかどうかは分らないが、原発の危険について思いをめぐらし、原発の危険性について改めて考えるよい機会となった。
福島の事故は起こっていないかのようだった
伊方を訪れた感想について少し。原子力発電所の内部は、40人以上の見学者がいないと見ることができないので、隣接するPR館のビジターズハウスと広報センターを見学するにとどまった。モダンな建物、ビジターズハウスには、原子力発電のしくみや安全性について理解しやすいように、豊富な展示物や映像が並んでいた。子どもの遊べるスペースもある。もちろんデメリットには全く触れられていない。未来的で清潔、親しみやすいキャラクターと遊具。メディア・リテラシーがないと、子どもは「原発はなくてはならない」「安全だ」と思い込んでしまうかもしれない。現に、国民へのマインドコントロールはほとんど成功しかけていた。「原発はCO2を出さないから環境にやさしい」なんて、本気で言われていた。福島第一の事故が起こるまでは。
だが事故がおこったからといって、展示物に変化があるわけではない。そこには日常の時間が流れている。展望スペースから山の向こうに伊方原子力発電所が見えた。天気はとてもよかった。うららかな春の一日。事故は起こっていないかのように「環境にやさしい」「リサイクル」「安全」「くらしに役立つ」などの文字が平然と並んでいた。くらくらとした。
帰りに伊方町中心部に立ち寄った。電源三法(電源開発促進税法、電源開発促進対策特別会計法、発電用施設周辺地位射整備法)により、立派に整備された公共施設や建物が並んでいた。先入観を与えてはいけないので、あえてコメントをはさまなかったが、高校生たちは、札束をちらつかせてYESと言わせるこの国の仕組みに気づいただろうか。
高校生には、まえもってホームページ「よく分かる原子力」http://www.nuketext.org/suishin.htmlを印刷して用意した。このペームページでも触れられているが、核燃料のリサイクルは、実際にはほとんど行なわれていないにもかかわらず、ビジターズハウスの展示では、「96パーセントがリサイクル可能である」かのように述べられている。核燃料の再処理工場は、建設費が莫大に高く、ランニングコストも膨大で、事故リスクも格段に高い。(「核発電の憂鬱」http://sky.geocities.jp/nuclear_faith/dream/3.html)こうした問題についての学習は今後の課題である。
ホームページ「よく分かる原子力」の中に、こんなくだりがあった。
…社会というものは固定的なものでもなく、一部の人の思い通りに動いているわけでもありません。とは言っても、何か意見を言うということはとても勇気がいることです。「自分がやらなくても誰かがやってくれるだろう」とか「自分だけ出しゃばるのは恥ずかしい」とか「人からどう見られるだろうか」とか「どうせやってもムダだ」などと、つい考えてしまいます。でも、これらの感情は誰でも持っているものです。発言している人を見ると「かっこいいなぁ」とか「よくあん なことが言えるな」と思うものですが、そういう人だって上に書いたような感情とたたかっているのです。それに、何事についても、もしあなたが何も言わなかったら、相手は「反対ではない」=「賛成と同じ」というふうに受け取ってしまいます。それでは自分の考えが伝わらないし、現実を変えることもできません。自分自身を変えることもできません。「あきらめ」(マイナス思考)の状態にとどまってはいけないのです。「希望」と「勇気」(プラス思考)が社会を変える力だということを、皆さんにはぜひ心のどこかに置いてほしいと思います…。
批判的な精神を育て、社会を変革していく実践力を培わずして、何が教育か。オイラはへこたれずに取り組みたい。
「浜岡、伊方が突出」
原発立地危険度ランキング
(2011年3月26日号「週刊ダイヤモンド」より)
順位 発電所名 地震発生確率(%) 危険度格付
1 浜岡 86.19 A
2 伊方 43.62 A
3 福島第2 9.69 B
4 女川 8.39 B
5 東海第2 6.90 B
6 福島第1 5.72 C
7 東通 4.86 C
8 柏崎刈羽 2.44 D
9 美浜 2.35 D
10 川内 1.30 D
11 志賀 0.43 D
12 敦賀 0.22 D
13 高浜 0.16 D
14 島根 0.15 D
15 大飯 0.10 D
16 泊 0.04 E
17 玄海 0.02 E
(1989年度以降に起こったトラブルの深刻度を国際原子力事象評価尺度(92年7月31日以前は国内独自の評価)ごとに原発単位で集計。評価尺度は軽微なものから深刻なものまで0〜7の8段階(0−,0+の評価を入れると9段階)に分かれており、評価数値の大小、トラブルの多寡の順番でランキングを作成した。危険度格付けはトラブル数に関係なく、A=最大でレベル3以上、B=最大でレベル2、C=最大でレベル1、D=最大でレベル0+、E=0+以上のトラブルなし。ちなみに海外では86年のチェルノブイリ原発事故がレベル7で、国内では99年のJCOの臨海事故がレベル4で最悪)
「不安残る伊方、女川、浜岡」
原発耐震性危険度ランキング(同)
順位 発電所名 耐震性比率 危険度格付
1 伊方 216.1 A
2 女川 179.9 A
3 浜岡 169.9 A
4 福島第2 151.2 B
5 東海第2 138.1 B
6 福島第1 123.7 C
7 川内 106.3 C
8 美浜 95.5 D
9 柏崎刈羽 87.1 D
10 高浜 86.2 D
11 東通 85.5 D
12 大飯 81.6 D
13 泊 55.6 E
14 敦賀 55.5 E
15 玄海 53.9 E
16 志賀 53.9 E
17 島根 46.9 E
(各原発の原子炉建屋がある位置に、最大どれくらいの地震動が来るか特定、これを各原発が設計基準にしている設計用地震動S2の最大速度で割って、比率が高いほど耐震性に問題があるとしてランキングを作成した。地震動予測地図データの「今後30年以内に3%超の確率で見舞われる一定以上の震度の地震による工学的基準に庵(Vs400)の地震動の最大速度(平均ケース)については、原発などの開放基盤(ここでは単純化して比較するため一律Vs700とした)と条件を合わせるため1.45で除した。また、設計用地震動の最大速度は、原子力安全委員会の資料「α倍のSs」についての考え方(試案)」(2005年8月24日)から引用。想定される地震動を設計用地震動で割った耐震用比率は当然100%以下であることが望ましいとの考え方から、危険度格付けは、A=160%以上B=130%以上160%未満C=100%以上130未満D=70%以上100%未満E=70%未満とした)