「創」2011年5・6月号/森達也「極私的メディア論」ほか

創 (つくる) 2011年 06月号 [雑誌]

創 (つくる) 2011年 06月号 [雑誌]


 オイラの家にはテレビがない。視たい時は、NHK受信料を払っている実家に押しかけて見せてもらう。昨日は番組の終了が午後11時15分ごろになったので、今朝は眠くて仕方がない。これも10時半には就寝するという「よい子の生活」が破られたせいだ。


 テレビが生活を規定する。午後9時過ぎのテレビの番組は、だいたいが午後11時くらいに終了する。テレビを視る生活をしていると、これに合わせて午後11時すぎ以降に就寝する生活になってしまう。テレビが生活パターンを決めるのだ。


 そして我々の考え方も知らず知らずのうちにテレビに振り回されている。
 定型的な言説がメディアに蔓延している。誰も責任をとらない、情理を尽くさない言葉の氾濫が、メディアの暴走そのものだと看破したのは内田樹だった(「街場のメディア論」)。やっかいなことに、我々はそのことに気づかない。


 雑誌「創」2011年5・6月号に掲載されている、森達也「極私的メディア論/第60回「今、自分ができること」という連載の中に、興味深い一節があった。夕刊フジのニュースサイトであるZAKZAKの「地震を機にアメリカの反日感情が高まっている」という記事について、アメリカ在住の町山智浩が厳しく指弾していることを紹介していた。以下、ZAKZAKの引用である。


「米“放射能パニック”隠蔽政府にヒラリー激怒「信用できない」」2011.03.18


 東京電力福島第1原発の事故を受け、米国内で「反日感情」が高まりつつある。東日本大震災直後は同情も多かったが、菅直人政権の原発危機への対応のひどさに、ヒラリー国務長官までが「日本は信用できない」と激怒。米メディアが「今週末にも、太平洋を超えて放射性物質が到達する」と報じたこともあり、西海岸はパニック状態になりつつある。


 「日本の指導者の欠陥が危機感を深める」


 ニューヨーク・タイムズ紙は16日、こんな強烈な見出しで、菅首相臨機応変の対応力や官僚機構と円滑な協力関係に欠けるため、国家的危機への対処を大幅に弱くしている、と指摘した。


 今週に入り、米政府やメディアは総じて日本に厳しい。悲惨な大震災への同情はどこかに吹き飛んでしまった。


 米国在住のジャーナリストは「ホワイトハウスや議会で連日、日本の原発危機に関する会議や公聴会が開かれているが、『日本政府や東電は情報を隠蔽している』『混乱して無政府状態』といった反応ばかり。かなり緊迫している。これを放置すると、反日感情がさらに高まる」と警告する。


 事故発生直後、米政府は原子炉冷却に関する技術的支援を申し入れた。ところが、原子炉の廃炉を前提とした提案だったため、日本政府は「時期尚早だ」と受け入れなかったという。


 その後も、米政府は外交ルートを通じて、「第1原発は大丈夫なのか?」「本当のことを教えてくれ」と打診したが、日本外務省は首相官邸の指示もあり、「適時適切に対応している」とお役所答弁。ところが、第1原発の危機は日に日に深刻化し、水素爆発や放射性物質漏れが発覚した。


 このためか、ヒラリー国務長官は「日本の情報が混乱していて信用できない」「米国独自の調査で判断する」とテレビのインタビューで強い不快感を強調。在日米大使館は第1原発の半径80キロ以内に住む米国民に避難勧告し、東京の米大使館などに勤務する職員の家族約600人に、自主的な国外退避や日本国内の安全な地域への避難を認めると発表した。


 米メディアも17日朝から「金曜日にも太平洋を超えて米国に放射性物質が到達するから危険」と派手に報じ、欧州やアジアのメディアも「天災が人災に発展」「事実を隠蔽した」などと報道。


 米西海岸はパニック状態で、抗放射能薬が飛ぶように売れて、品不足状態だという。


 現在、ワシントンに滞在している国際関係学研究所の天川由記子所長は「米政府は菅政権に対し『大量の放射能漏れを隠している』との懸念を持っている。菅政権の対応の遅さと甘さは、米国民に『日本人は放射能漏れを起こした厄介者』と思わせかねない」と語る。


 菅政権は、日本を世界の孤児にする気なのか。

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20110318/plt1103181529003-n1.htm


 森は言う。「「激怒」とか「パニック状態になりつつある」とか「どこかに吹き飛んでしまった」とか「世界の孤児」とか、言葉の使い方があまりに扇情的でデリカシーに欠けている。さらに、米国在住のジャーナリストも含めて、情報源はほとんど明らかにされていない。使われているヒラリー激怒の写真には、「菅政権への不信感を強めるヒラリー国務長官(AP)」とのキャプションが加えられているけれど、もちろんこれが菅政権批判をしている瞬間のヒラリーの写真であるかどうかはわからない。町山によればそもそもヒラリーは、菅政権を直接的に非難などしていない。(http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20110320(リンク筆者))」


 そして町山の言葉を借りて、こう総括する。
 「要するに、この記事は、現政権を罵倒したいがために、「世界から日本が嫌われているぞ」と孤立感を煽り、反米意識も煽っているだけなのです。しかし、たとえ弱いキャプテンであっても今はみんなチームとなって彼を助けて危機を乗り切らなければならない時です。それを、このような記事で、チームワークを引き裂き、日本を助けようとしている世界に対する疑心暗鬼をばら撒いて何になるのでしょう。これこそ反日行為以外の何物でもありません(町山)」


 印象に残ったのは、森の言う「言葉の使い方」だった。「激怒」「パニック状態」「どこかに吹き飛ぶ」「世界の孤児」…。我々は見抜くことができる。言葉の使い方で、その記事がどういう記事なのかを。
 書き飛ばされた記事、情理のこもっていない記事はわかる。言葉を見れば分かる。神は細部に宿る。言葉に対する感受性を磨かないと。とくに政治的発言をする人に、こうした扇情的でデリカシーに欠ける文章を書く傾向が強い。オイラは雑誌「SAPIO」なども読むのだが、「SAPIO」の国際情報情報の豊富さを評価したうえで書くのだが、扇情的にすぎる文章は説得力をなくしてしまうことも多い。オイラもちゃんとしないといけないなと思った次第である。