週刊エコノミスト2011年10月4日号「特集/スマホが世界を支配する」

エコノミスト 2011年 10/4号 [雑誌]

エコノミスト 2011年 10/4号 [雑誌]


 スマートフォンが爆発的に売れている。この雑誌を読むまでは、スマートフォンはニッチな商品だと思っていた。ネットを見られる携帯は、以前からある。スマートフォンと言えども、パソコンと比べるとネットを見る環境は劣る。スマートフォンが、人々のライフスタイルや社会を変えるまでのことはない。オイラはそう思っていたが、まったくの認識不足だった。


「悪魔の端末」スマートフォン


 多機能なスマートフォンの普及によって、ゲーム機、パソコン、テレビなど、専用機が売れないという。任天堂の「ニンテンドー3DS」の不振は、ずばりスマートフォンのせいだ。「専用ゲーム機と専用ソフトで遊ぶスタイルは、もはや古い(新清士氏)。スマートフォンにゲームをダウンロードして遊んだり、ネット上の交流サイトであるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)内で、ソーシャルゲームを楽しむスタイルへとユーザーが移っているという。

 HPによると、パソコンの個人向け売上は17%減少(5〜7月期決算)、オリンパスでは、コンパクトデジカメの販売台数が前年比10%減(前年同期比)。カーナビや音楽プレーヤー、ICレコーダーは、スマートフォンでも機能を代用できることもあって、軒並み苦戦中と聞く。テレビは視聴時間が減少し、情報通信費の支出増加でカラオケ・居酒屋などの消費は縮小、出版・広告も、SNS向け広告の増加で、純広告は減少とのこと。ノキア日本写真印刷は人員削減だ。まさにスマートフォンは、スマートフォン以外の機器を駆逐する「悪魔の端末」なのである。


 海外が実感する多機能化


 なぜこんなことになるのか、正直さっぱり分からなかった。ゲームもインターネットも携帯電話でできる。携帯電話があれば、スマートフォンなんていらないのではないか。オイラはそう思っていた。しかし、夏野剛の次の文章で気づいた。「世界でスマートフォンの衝撃と呼ばれているものは、日本では2000年代以降、既に起きていたことだ。手元でインターネット接続ができ、ゲームやショッピングを楽しむというのは、NTTドコモのサービスであるiモードで実現している。グーグルが進めているグーグルウォレットは、おサイフケ−タイと同じで新しいサービスではない」そうだ、それらは日本では当たり前だった。しかし、世界ではこれこそが「スマートフォンの衝撃」と呼ばれるのだ。世界では、これまでは機能の少ない携帯が当たり前だったのだ。それが今、多機能端末であるスマートフォンが爆発的に世界に広がりつつある。オイラは日本のことばかりを見ていた。


 中国ではすでに、「100元」(1200円)の格安スマートフォンが売られ始めている。「インドでも、年収100万くらいの世帯にも普及している(野村総研石綿昌平)」とのこと。2010年のスマートフォンの世界販売台数は約3億台。2017年には15億台に増え、累計出荷台数が世界人口の70億を超えると予想されている。こうした傾向は、とどまるところを知らない。


 ビジネスも、国内だけを見て、かつハードウェアだけに力を入れていたのでは取り残される。現代は、クラウドを利用してさまざまなサービスを提供する時代。モノを作るだけで、周辺環境やサービスを整備して来なかった日本は、携帯多機能化技術に関しては、世界より何歩も先んじたのに、アップルにしてやられてしまった。


 「乗り遅れるな」と言うが・・・・


 革命的な商品は、かつてのテレビや携帯もそうであったように、知らず知らずのうちに、人々の生活が規定する。便利であるがゆえに、人々はスマートフォンの画面に合わせた行動を取り、思考をする。行動や思考がスマートフォン規格に切り揃えられていく。


 しかし、それで人が進歩するかどうかは別問題である。
 内田樹は、特集の中で次のように語る。「スマートフォンは結局、移動しながら通信するツールで、それ以上ではないのではないか・・・・スマートフォンを利用することで、情報の量は増えるかも知れない。だが、知的な資源を集中することをせず、時間つぶしにやっている限りは、情報の質を判定する能力は身につかない」「具体的な生活世界の上に乗っかれば、とても便利で有意義なツールだが、実生活で人との関係がしっかりしていないと、スマートフォンを手にしてネットの世界で暮らしていても何もできない。一番長い間、情報機器に触れている人が、実は情報階層化のなかで最下層に位置するということが起きる」
 機器を使いこなすよりも、人を見る目を実生活で養った方が、よっぽど有益だよ、と内田樹は言う。逆説的だが、案外このあたりが、最も良識的な意見なのではなかろうか。


 週刊エコノミストは、今号からリニューアル。「アートな時間」「読書日記」など、知的刺激を換起するページも、雑誌全体の中でメリハリがつけられて、好印象。このリニューアルは悪くない。