人生万歳!


人生万歳! [DVD]

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 ウディ・アレンのニューヨークを舞台にした最近作。原題は「Whatever Works」(うまくいくならなんでもあり)。老いを意識した物理学者のボリス(ラリー・デヴィッド)は、かつてはノーベル賞候補にまでなったが、偏屈で皮肉屋でパニック障害、人を罵倒する嫌な奴。自殺を図るが日よけの上に落ちて一命を取りとめ、妻にも去られ、それ以後はボロアパートに住み、子供にチェスを教えて小銭を稼いでいる。


 ある日アパートに転がり込んできた世間知らずの若い娘メロディ(エヴァン・レイチェル・ウッド)。彼女は南部のキリスト教原理主義者の娘。娘をミスコンに応募させたりする母親に反発してニューヨークへやってきたのだ。世間知らずで無防備で、天真爛漫で人のよいメロディは、すっかりボリスに影響されて、一目ぼれし、ついにはなんと彼と結婚する。偏屈なボリスも彼女を必要とし、結婚後は人生を楽しむようになる。


 そこにやってくるメロディの母親。母親は離婚し、家を売り、行くあてがなく、ボリスのアパートに転がりこんできた。母親は、年の離れた娘の結婚相手を見て、娘の結婚に反対、娘に若い男を引き合わせようとする。やがて娘には若い恋人が出来、ボリスは捨てられる。一方、母親はニューヨークで性的に激変し、男二人と住みはじめ、芸術家としての才能を開花させ、写真のコラージュの個展を開くようになる。そこへ娘の父親がやってきて・・・・・。


 とまあ、風采のあがらない老境に達した男が、若い娘に捨てられるという、切ない話のはずなのだが、W・アレンは悲劇的に描かない。捨てられたボリスは2度目の投身自殺を図るが、今度は彼は女占い師の上に落ちて一命を取りとめる。それをきっかけに、ボリスは女占い師と付き合い、なんと二人は結婚するのである。原題の「うまくいくなら何でもあり」が表しているように、変化することを恐れずに、主義主張にとらわれることなく、楽天的にあるがままを受け入れることができたら、幸せになることができるというアレンのメッセージが、ストレートに伝わってくる寓話的小品である。

 
 饒舌で皮肉たっぷりの会話は、これだけで「芸」の域。(まW・アレンがうまいのは当たり前の話だが)。下の予告編でも確認できるが、主人公が突然画面の外の映画館の観客に突然語りかけるというギャグはW・アレンらしいメタ・フィクション的シュールさ。ユニクロが登場したり、最近のニューヨーク事情もかいま見える。


 会話には映画ネタが満載。「風と共に去りぬ」「素晴らしき哉、人生」など、映画的教養があれば楽しめる。というより、ニューヨークのスノッブは、映画的教養が中心的話題であり、映画ネタを駆使して日常会話ができると言うことか? 日本の場合、地方の映画館ではW・アレンの映画そのものが、まったく公開されなくなり、若い人はW・アレンの名前も知らない。日本では映画的教養は絶滅の危機に瀕している。