ダーティハリー3


ダーティハリー3 [DVD]

ダーティハリー3 [DVD]


 1977年正月公開映画から一本紹介。(ネタバレ炸裂です)


 純然たる娯楽作だが、映画の設定などから時代背景を強く感じることができる。


1970年代といえば価値観が錯綜した時代。60年代にベトナム反戦運動が激化し、公民権運動によって黒人の地位が上昇し、白人の地位は相対的に低下した。だからこそ暴力的な方法を用いて犯人を懲らしめるハリー・キャラハン刑事(イーストウッド)のやり方が、ホワイト・トラッシュのうっぷん晴らしになったのだろう。


物語の構成も保守的である。ハリーは、女性の新人部長刑事ムーア(タイン・デイリー)とペアを組むことになる。彼女の抜擢は、女性進出に理解を示す外向けのアピール。市長の選挙のため。ムーアには現場の経験がない。ハリーはうんざりしながら一緒に仕事をするハメになる。
 彼女とハリーの会話には、露骨に男性性が含まれている。マグナム44を使う理由について「照準が正確だ」というハリーに対し、「目的は貫通させることなのね」と応じるムーア。長大なマグナムとあいまって、あからさまに性的だ。ハリー・キャラハンのキャラクターは、男性優位があたりまえで、正義が正義だった(白人たちにとって)古きよき西部劇の保安官を彷彿とさせるものだ(悪趣味ではあると思うが)。
対する犯人はベトナム戦争の帰還兵という設定。人民革命攻撃隊を名乗るが、目的はカネ。重火器を使い、次々と凶悪犯罪を重ねていく。まさに絶対悪そのもの。


しかし、正義を執行しようとするハリーの前に、さまざまな障害が立ちはだかる。嫌な上司、人権を振りまわすワル、悪事の一端をかつぐ神父や弁護士、選挙のために警察を利用しようとする市長…。ハリーの怒りのボルテージはあがっていく。


あくまで娯楽映画。だが


 こうした設定は図式的で単純である。目には目を、歯には歯を。神父を脅したり、重火器を使う犯人には重火器をぶっ放したり。どぎもを抜くバトル・シーンで、うっぷん晴らしには最適。
 クライマックス・シーンに、アルカトラズ刑務所跡が選ばれたのもわかりやすい。ここははかつて凶悪犯が収容されていた刑務所。凶悪犯にふさわしい場所だ。


 ハリーは、バズーガ砲という大仰な方法(まさに男根!)で犯人を殺害するが、その途中でムーアもまた死ぬ。未熟な彼女が未熟さゆえに死んでいくラストは、無残であり、決して後味のいいものではない。スケールの大きなアクションという触れ込みだが、娯楽作としては十分なカタルシスが得られない。正義と悪の境界が見えにくくなった、価値相対主義に翻弄される保守派の閉塞感がそこにある。。


 映画中では触れられていなかったが、ムーアを演じたタリン・デイリーはアイルランド系。ハリーもまたアイルランド系で、白人の中では差別される側におかれてきたグループである。ふたりの間に共感が生まれたとしたら、人種的な共通性もあったのではないか。
 何も言わずに去っていく彼の複雑な表情が印象的だった。