サンエイムック[マガジンXビジネスvol.005]中国車のすべて2011

Magazine X Business vol.5 (SAN-EI MOOK)

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 このシリーズは、日本ではよく知られていないインドや中国などの自動車事情を詳細にレポートして、情報提供してくれるムック。自動車の性能や品質だけでなく、自動車を取り巻く文化や社会を視野にいれて編集されているのがいい。自動車オタクだけのものでない、社会や世界を視野に入れた「自動車文化」を感じさせる一冊。


 中国の自動車販売台数は約1800万台(2010年)。日本約500万台、アメリカ約1100万台(ともに2009年)だから、他を引き離しての世界一位。2008年が938万台だから、2年で2倍増加したことになる。驚異の増加率である。


海外メーカーが進出すれば、利益は国家に入る


 これらの生産の多くは、海外メーカーの力を借りている。外国メーカーの車を直接生産したり、設計を供与されて中国で生産するケースを合計すると、全体の4分の3を占める。なぜこれほど多いかというと、海外メーカーの中国進出は、中国に大きなうまみがあるからだ。海外メーカーが工場を建設するときは、中国側の資本を50%以上入れ合弁企業の形式にしないといけない。つまり、外国メーカーが中国に進出すればするほど、中国の合弁相手が、出資比率に応じた利益を持っていけるのである。そしてこうした中国メーカーのほとんどが国営企業。利益は国家のものになる。


 タイプ別ではセダンが多いが、現在では多種多様なモデルが売れており、自動車の普及と価値観の多様化が進んでいるとのこと。「広州国際汽車展覧会レポート」や「中国車図鑑2011」のページには、さまざまなメーカーの多様な最新モデルの写真が並んでいた。
 一方、はなやかなニューモデルやプロトタイプの陰には、電動自動車、電動バイクが流行っている。内陸部にはガソリンスタンドが普及していないところも多く、そういうところではEVしか使えない。だが日本の電気自動車とは違い、簡単なモーターで動く簡便なもので、ヒーターもなく、クルマに七輪を積んでいる(!)とは驚き。


コピー車のレベルも上がった


 中国と言えば、日本車などを真似た「コピー車」が有名。一昔前のコピー車は「どことなくいかがわしく」「笑って許せるレベル」にあった。しかし最近では、すべての部品をボディから取り外し、すべてのパーツを三次元測定器で正確に採寸し、そのデータをもとにCAD図面に仕上げるそうだ。BRDオートのF3は、トヨタ・カローラのコピー車で、コンパクトカー部門の販売台数で一位。M6はエスティマの、奇端汽車の威麟H5はハイエースのそっくりさん。


 「日本は、自社や関連企業で設計・製造した部品ひとつひとつの調和を大切にしながらのきめ細かいもの造りが得意だ。いわゆる「すりあわせ型」のもの造りと呼ばれている。これに対して、米国や中国はパソコンに代表されるような「モジュール生産」がうまい。…日本式もの造りが宮大工的なのに対して、中国や米国はプレハブ住宅的なもの造りだ(井上久男・37ページ)」


「日本はもう勝負にならない」ホントかな


 中国の技術力は急速に力をつけているという。日本企業で経験を積んだエンジニアを傭っている例は非常に多く、日本からの頭脳流出は止まらない。「早晩、中国はあらゆる技術を身につけるだろう。私の知人でも、中国で歓待され、尊敬され、技の伝授に心血を注いでいるひとたちがいる。逆に言えば、日本企業がそういう部分で何もしなくなった。早期退職を迫る企業が多く、製造現場から大事な知識がどんどん消えている。歯車製造現場では、機械加工と熱処理の技が失われなじめ、そこを補うために高価なドイツ製やスイス製の工作機械を買うようになった。大学では金属・機械と言った日本が優位に立っている分野でどんどん学科が閉鎖になっている。ヨーイドンでスタートしたばかりの分野は、資金に勝る中国やインドが強いのは当たり前だ。もう日本は勝負にならない(牧野茂雄・69ページ)」扇情的なまとめには、ホントかなと思ったが、良心的な一冊だと思う。