井上陽水「リバーサイドホテル」

GOLDEN BEST

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 マイブームである。訳のわからなさが心地よい。「ベッドの中で魚になる」って何だよ、「川に浮かんだプールでひと泳ぎ」って何だよ、最初に思ったのは意味のわからない面白さだった。プールは川に浮かばないだろう…無意識が刺激され、気になって仕方がない。気がつくと口ずさんでいる。歌は右脳で聞くものだから、論理的でなくてもかまわない。むしろ訳のわからなさに魅力を感じる。訳がわからないから、何度聞いても飽きることがない。


 同義反復が多く使われている。「夜明けが明けた」「金属のメタルで」「川沿いリバーサイド」「水辺のリバーサイド」現実がダブって見え、現実と非現実の境目があやふやになるような、麻薬的感覚にとらわれる。オイラは麻薬を経験したことはないが、リアルが失われ、感覚だけがとぎすまされる感覚が、ドラッグを想起する。どことなく夢幻的で現実を写し取っているが、現実とは微妙に違う一枚の絵のような感じ。


 「何度もキス」「ベッドの中で魚になる」「夜の長さを何度も味わえる」など、エロチックでプライベートなふたりの退廃性を強調するような歌詞が、けだるいメロディと甘い陽水の声にのせて響く。「狭いシートに隠れて」というフレーズはホテルでの秘事性を際立たせ、没入するふたりの淫靡な雰囲気が漂う。「テレビのプラグ」は男女を結合を想起する性的なイメージ。フロイト的な解釈を誘う。


 意味がわからなくてもいい。わからないから、心の深いところに届く。まるで夢の中の世界のよう。魅力の源泉を理解しようとしても理解しきれない懐の深さに幻惑される。


陽水の快楽―井上陽水論 (ちくま文庫)

陽水の快楽―井上陽水論 (ちくま文庫)


 陽水の作品は、哲学的な視点にひきつけて語りたいという竹田の欲望を喚起する。陽水の作品は、それに耐える奥行きの深さがある。ではオイラは、演劇的な視点から、陽水を語りたいと思うのだが、得体の知れない陽水という怪物の周りをぐるぐる回っているばかり。歯痒い。