タカギカツヤ「またあしたっ」最終報告



 11月19日午後6時25分、おかげさまで上演が終了した。オイラの受け持っている演劇部の公演。第63回徳島県高等学校演劇研究大会、タカギカツヤ作「またあしたっ」である。
 たくさんの旧知の皆様に来てもらった。前任校の演劇部のOB、勤務校の現役生徒や演劇部OB、保護者、同僚、関係者の方々などなど。遠くは東京、関西方面から、この芝居を見るために帰ってきていただいた方もいる。懐かしい顔に、思わずほろっとした。ばたばたしてて、あまり構うこともできなくてごめんなさい。皆様に、本当に深く御礼申し上げます。


 芝居が終わって今、軽い喪失感にとらわれていることに気づく。力を入れて芝居に取り組んできた日々もこれで終わり。部の2・3年が引退し、メンバーが代わる。
 部員には一言も言わなかったが、実は少しだけ期待していた。県大会で2位以内に選ばれると上の四国大会に行ける。その場合は、あと一カ月ほど、今のメンバーで今の芝居に取り組める。しかし結果は3位。四国大会の夢は潰えた。淡い期待があった分、終わりを受け入れるのは、いつものことだが少し辛い。
 近年はオイラも県大会で終わる場合が多くなった。慣れたとは言え、「いま=ここ」の充実した時間を持つことができた年ほど、やりきれなさから快復するには、少し時間がかかってしまう。


段取りが非常に多い芝居になった


 「またあしたっ」は、3年の1学期末テスト直前、3年の「あかんたれ女子3人組」が、「赤点採ったら進学も就職もできん!」ということで、放課後教室に残って勉強するという話。勉強しているのか休憩しているのかわからない、ダラダラした50分間のドタバタをマンガチックにスケッチしたもの。


 作者のタカギカツヤ君は昨年度の卒業生で、作品は昨年度の段階で完成していた。青春期の一ページ、進路決定を前に控えた高校3年のタカギ君が、切ない時期を送った自らの経験を元にして綴った作品である。リアルな若者言葉と、彼の言語感覚から発せられた独特の言葉が交錯する。セリフが生き生きとして、オリジナリティある世界を構築している。先生がやってくることを「先生、落ちてきたー」、3年もあと少しになったことを「もうすぐ明日なくなるわ」。そして、落ちこぼれの側にたって、その世界を楽観的に肯定しつつ社会に鋭い目を向けるという内容は、顧問や優等生には絶対に書けない種類のものであるとオイラは思う。


 役者作りは、実は夏の段階から始まっていた。人数が少ないので、一年が中心にならないといけないことは、1学期からわかっていた。そこで、夏に上演した芝居は、一年の演技力向上を目指した芝居になった。面白い芝居にはならないことは承知の上で、1年の役者としての力を引き上げることを主眼に芝居づくりに取り組んだ。幸い3年の近藤千紘が、8月、AO入試で進学を決めたので、今年も県大会に参加することになり、大きな戦力となった。


 役者はよくがんばったと思う。「あかんたれ3人組」は、3年(近藤千紘)と、1年二人(森雅恵、沖津優依)。リアルなだけの高校生ではなく、型破りな、スケールの大きな高校生が求められた。だがスケールの大きさなど、一朝一夕に得られるものではない。役者は、元来真面目な生徒たちなので、だらしない不良生徒役を自らの身体感覚だけで演じてもらうわけにはいかない。ポイントになる箇所に段取りをつけていくと、最終的には、段取りが非常に多い芝居になった。おまけに、本読みから、立ち稽古、返し稽古と進む間に、演出の基本方針を転換する必要性に迫られたため、そのたびに駄目出しのポイントが変化し、役者は演じるのにかなりの記憶力と集中力を必要とした。


 オイラの指導も試行錯誤だった。テンションをあげ、声をはりあげると、緊張も一緒にあがってしまう。相手のセリフを聞けなくなる。受けに対する意識が弱くなり、段取りが段取りに見える。高校生女子特有の、キンキンとした感じになってしまう。なので途中で方針を転換して、少しリアリティ重視の線に芝居を軌道修正した。テンションと緊張、セリフの軽みを別々にコントロールさせることを課題とした。軽く軽く、もっといい加減に、弱っちく作れ、段取りで動くな、受けがないぞ、公演前10日間、かなり役者を追い込んだ。


 二人の教師役(近藤佑哉、城福愛)は出番が少ない。稽古の時間も限られるので、役を作るのが難しかったと思う。加えて、演出や音出しなど、裏方を兼ねていたので、集中も途切れやすく、かなりの負担をかけた。先生らしく演じることが重要なのではなく、一緒にいる生徒側がどうリアクションすれば教師に見えるのか、ということの方が大切である、ということにも気づかされた。
 また、今回助っ人として音響・照明に入ってくれた二人(武市晃子、中川岳志)は、人間的にも本当にすばらしい高校生で、集中力と責任感で芝居を脇から支えてくれた。心から感謝しています。