加茂隆康「自動車保険金は出ないのがフツー」幻冬舎新書


自動車保険金は出ないのがフツー (幻冬舎新書)

自動車保険金は出ないのがフツー (幻冬舎新書)


 保険業界の常識に詳しくない我々は、交通事故で被害を受けたら、保険がおりると思っているが、そうではない。「保険金は出ません。正確にいうなら、一銭も出ないとは言わないが、満足するような保険金は出ないのが普通です」と筆者は言う。
 筆者は交通事故訴訟の専門家として活躍する弁護士。本書は、自動車保険について、保険会社の出し渋りの実態と原因、保険金を出させる対処法などについて書かれた本である。実際のケースに基づいた実例が豊富にあげられていて、実戦的で親切、具体的でわかりやすい。筆者はミステリの著作もある方で、文章表現についてもよくツボを押さえているように思える。


 挙げられている例の中からひとつだけ紹介すると、交通事故の被害で後遺傷害等級10級になった49歳の男性被害者、T損保からの初回の提示額は580万円。これに対し、弁護士の筆者が2150万を請求したところ、4ケ月あまりも待たされたあげく、T損保から送られてきた再提示案は、なんと「1710円」。「1710万円」の入力ミスではない。1710円である。


 カッとなった筆者がどんな行動をしたのかは、本書を読んでもらうとして、なぜ損保はこうした出し渋りをするのか。その原因の大もとは、一九九八年の保険の自由化にあるという。保険料の値下げ合戦にともない、企業は保険金の支払いをいかに削って利益を出すかに力を入れはじめる。被害者の無知をいいことに、泣き寝入りをするように仕向けたり、支払い金を減額したり、その悪辣で臆面もない詐欺まがいの手口が本書を読めば分かる。


 薄々感じてはいたが、改めて思ったのは、保険業界というのが、生き馬の目を抜く場所であるということである。筆者は言う。保険金は支払われないのが普通。泣き寝入りしない限り、9分9厘トラブルになる。事故をすると、そうしたトラブルに嫌でも向かい合わないといけない。
 オイラは、良心に背を向け悪辣なことをしている企業を儲けさせることはしたくない。そこでどう振る舞うべきか、本書を手に取って読むといい。損はしないと思います。