[映画」天使の眼、野獣の街


天使の眼、野獣の街 [DVD]

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 掛け値なし。とても面白かった。
 2007年製作、2009年日本公開の香港サスペンス映画。宝石強盗団を追う香港警察・刑事情報課・監視班の息づまる追跡劇。宝石強盗のボスにレオン・カーフェイ、刑事情報課の中年刑事にサイモン・ヤム、若い新入りの見習い女刑事にケイト・ツィ。通行人のフリをして徹底して犯人を監視・尾行するサスペンス。ジョニー・トー製作、トー組のヤウ・ナイホイの監督デビュー作。


 何が面白いって、シンプルだが効果的な「構造」が面白い。この映画では、さまざまなことが「(2回)反復される」。
 たとえば、最初のシーン、ケイト・ツィ扮する女刑事は、上司のサイモン・ヤム刑事を尾行する。しかし喫茶店で正体を見破られてしまう。これとほぼ同じ場面がラスト近く。ケイト・ツィ扮する女刑事が、偶然見つけた宝石強盗団のボス、レオン・カーフェイを尾行し、そして喫茶店で、冒頭と同じように、正体を見破られてしまうのである。


 ふたつの相似形の場面は、周到に計算されている。最初の場面は監視班への入門テスト。この場面で、映画の設定の基本的な事柄を観客は理解できる。ケイト・ツィがまだまだ未熟であること、監視班がどんな仕事をしているのか、等など。だから、2回目の場面で余計な説明をしなくても、学習済みの観客は、一回目の場面から応用・発展させてさまざまなことを考える。ケイト・ツィ扮する女刑事の成長も分かるし、レオン・カーフェイ扮する悪役ボスの直感力のレベルの高さも分かる。展開が説明的になることなく、サスペンスは高まっていく。冒頭からそうなのだが、この作品、説明的な言葉が本当に少ない。映画的であり、スタイリッシュである。


 通りがかりの警官が、悪役レオン・カーフェイによって頸動脈を切られ殺される場面も「反復=相似形」の場面である。ここでは、その場に居合わせたケイト・ツィが、任務を忘れ、無線お呼びかけにも耳を貸さず、憑かれたように警官を手当てする。非情になりきれない若い女刑事の優しさと未熟さが切ない。そしてこの場面と対応するのが、ラスト近く、サイモン・ヤム刑事が悪役ボス、レオン・カーフェイによって頸動脈を切られる場面である。最初の場面と同じように、ケイト・ツィ扮する女刑事がこれを目撃する。血まみれになっているのは、自分の上司のサイモン・ヤム刑事である。彼は若い女刑事に「追え」という。彼女は葛藤しながら、今度は犯人を追う。任務の非情さが浮き彫りになる。


 他にも、サイモン・ヤム刑事の頸動脈を切った悪役ボス、レオン・カーフェイが、ラスト、桟橋のフックに頸動脈を偶然切られて絶命する場面であるとか、サイモン・ヤムの小話であるとか、反復が多い。
 反復はさまざまな効果を生む。「2」はシンメトリー。安定する数字である。反復によって、それぞれの場面に象徴性や寓話的意味合いが付与される。たとえば、レオン・カーフェイが桟橋にかけられたフックで頸動脈を切られて絶命する場面では「因果応報」という言葉が浮かぶ。反復は物語を安定させ、作品の象徴性を高めると、この作品を見ながらオイラは気がついた。こうした部分にこだわりのある作り手がいることを、興味深く感じたのである。