モテキ


モテキ Blu-ray豪華版(2枚組)

モテキ Blu-ray豪華版(2枚組)


 (結末に触れています)
 不器用で金も才能もない音楽業界誌で働く主人公に「モテキ」が到来して、理想の彼女に出会い、悶々とする日々を描く。マンガ原作、TVドラマ化を受けて製作された。ただし、映画はオリジナル・ストーリー。森山未來長澤まさみ麻生久美子リリー・フランキー。監督大根仁キネマ旬報ベスト・テン7位。


 どこかバブル期を彷彿とさせるのは、音楽業界とその周辺が舞台となり、その非日常が描かれているからだろう。主人公はサブカル情報誌のライターという設定。大物ミュージシャンにも会えるし、美人の友達もできる、リリー・フランキー扮する上司はよく飲み歩いて、手広く女性とお付き合いをしている。景気悪そうに見えないし、羽振りがいいのである。


 映画そのものも、バブル期のトレンディドラマのような趣で、恋愛ゲームが繰り広げられる。お色気サービスも濃厚で、主人公がヤル事ばかりに関心があるのも、そのくせ不器用で純情なのも、相手を見かけや趣味で判断するガキっぽさも、恋愛ごっこでしかない底の浅さも、「どこかで見た」バブルの頃のドラマのように思える。乱暴に言ってしまうと「よくある話」である。


だが、ツイッターを小道具として使ったり、パソコン画面風にしてみたり、カラオケ風の場面を使ったり、文字が後景を流れたり、映画表現に関しては現代を意識して先鋭的で、これでもかと言わんばかりに作り込んだいろいろな場面を繰り出してくるのは、創り手の貪欲さが感じられて好ましい。こうした細部の濃密さが、この映画の魅力のひとつだと思う。Perfumeの登場するミュージカル場面にしても、よく演出されており、主人公の心の躍動感がよく伝わってくる好シーンだ。


 ただ終盤、映画はラストにかけて転調する。ラスト前までは、ガキッぽい主人公の情けない恋愛(ごっこ)を、戯画的に誇張してヌケヌケと描き、主人公の心情をナレーションで語らせたり、ミュージカル風味の味付けにしてみたり(ミュージカル場面は「(500)日のサマー」のパクリと監督は言う。まさにヌケヌケとはこのこと!)、それなりに魅力的に進行していた。だが、ラスト、ヒロインの心情が十分に描かれないまま、唐突に「拒絶は好きの裏返し」という展開になるのである。表現のありようも、ハッピーエンドという着地点に至るために、ナレーションを封印し、微妙な男女の心理の機微を大芝居で見せる、という、ある意味正統的なドラマの手法に転調するのである。


 結果、とりあえずの恋愛の成就が描かれ、ハッピーエンドにも見えるシーンが付け加わった。ただそれは客観的なハッピーエンドではない。ヒロインに感情移入してはじめて理解できるハッピーエンドである。もし、仮にヒロインとの交際を妻に告白した恋人(イベンター/金子ノブアキ)の心情に寄り添ってこのドラマをみたなら、当て馬にすぎないイベンター(=金子)がかわいそうすぎる。そしてラストは完全に主人公とヒロインのふたりの世界。イベンター(=金子)の存在は霧散してしまい、何も描かれないまま。彼の視点から観れば、救いも何もあったものじゃない。何がハッピーエンドだ、ということになる。


 ハッピーエンドを観客は求めているという意味では、創り手は商業的には「仕事をした」のかも知れない。だが、主観的な展開が、ドラマの世界を狭く見せている。恋愛映画を好んで観る観客にとってはそれでいいのかも知れない。そもそも恋愛は主観的なものだという声も聞こえてくる。だが、作り手がそう開き直ることは話が別だ。主観的な決着のつけかたは、映画そのものを貧しくみせてしまうとオイラは思う。