榎本博明「「上から目線」の構造」日経プレミアシリーズ


「上から目線」の構造 日経プレミアシリーズ

「上から目線」の構造 日経プレミアシリーズ


 「上から目線」という言葉がよく使われるようになったと言う。かつては立場が上の人が「上から目線」なのは当たり前のことだった。それを気にする人が増えたということだろうか。


 本書は「上から目線」の心理構造を解剖した本である。書かれた方は学者の方だから、本書を学問的成果の延長上にきちんと置いて論を進めていく。フロムのパーソナリティの市場的構え、アドラーの劣等コンプレックス、エリクソンアイデンティティ拡散など、一般書らしく引用されている知見も有名なものが多く、教養書として読むこともできる。「上から目線」が決して新しい考え方でもなく、多くは既知の研究成果によって説明できる現象であると、筆者は言っているように感じられた。現に著者の主張は極めて穏当なもので、わかりやすいものである。


 オイラがもっとも興味深かったのは最終章。筆者の人間らしい部分がかい間見えた。著者は母性原理と父性原理に着目し、「上から目線」がことさらに言われるようになったのは、日本社会が母性原理の社会であることに原因があるのではないかと分析する。大勢の保護者が大学の入学式に同伴してくる、成績表を保護者に送付する、大学に保護者面接がある、就活さえも親ぐるみ・・・・こうした大学を取り巻く母性原理社会的な風潮に、筆者は苛立ちを感じていて、この章ではそのことを隠そうとしない。客観的な記述に終始しているそれまでの章とは、少しトーンが違うのが、人間的でいい。