林ナツミ「本日の浮遊 Today's Levitation 」青幻舎


(以下の内容は、2013年3月27日に改稿したものです)




 シャッタースピードを1/500にして跳躍する自分自身を撮影し、あたかも浮遊しているかのような写真を集めたセルフポートレイト。日常の中の非日常をクールに切り取っているのが鮮やかで、一度見たら忘れられなくなった。Philippe Halsmanの「Jump Book」のマネと言う人もいるが、林ナツミは単に跳躍の瞬間をとらえているのではなく、シチュエーションを作りその中に浮遊する自分をはめ込むといったもので、Philippe Halsmanを一歩進めたものと解釈するべきだろう。


 オイラは、ときどき「飛ぶ夢」を見る。空高く飛翔する夢というのはほとんどなくて、ちょうどこの写真集のように、ほんの少し浮かび上がり、地表近くを漂う程度。オイラの場合、夢で見たあの感覚と通底するものがあり、変に既視感がある。重力を振り切れない感じに、オイラは逆に、生きることの重さを連想する。


 林ナツミが目指すのは「跳躍」ではない。「浮遊」である。写真にこめられた「浮遊」へむかう意思に、オイラは彼女の芸術的執念を感じ、敬服する。ひとは重力から逃れられない。それでも「浮遊」しようとする姿は、限界に挑む一流のスポーツ選手や、自由を求めて戦う心ある人々の姿に重なる。不可能なことを可能にしようとする営みは、人間が人間らしい証である。


 先日この欄にブログで触れた「桐島、部活辞めるってよ」の登場人物たちは、現実の重さを実感しながらも、必死になってあがき、試行錯誤を重ねていた。林ナツミの試みは、そうした姿勢と、どこか通じるところがあるように思う。


本日の浮遊 Today's Levitation

本日の浮遊 Today's Levitation



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