人権新聞を出す
新年度も人権教育の係。ただ今年度は学年主任も兼ねる。学年主任は初めてなので、とまどうことも多く、いろいろ気ぜわしい。
さっそく人権新聞「じんけん雑草(あらくさ)」第一号を発行する。今年度も「手書き」にこだわっている。これはずっと変わらない。
オイラは、高校生に向けて自分の意見を書くときは、原則手書きで書くようにしている。それは、他の人では代替不可能な、オイラ自身の、今の言葉を高校生に伝えたいからだ。無限に複製のできるパソコンは、便利だが「弱い」。ヘタクソで歪んだ文字だからこそ、誰かの心に届くのだと確信して、悪戦苦闘している。
人権新聞の内容は、先日この欄でも触れた、ミッテランとコールのツーショット写真から。雑誌「「SIGHT」2012年冬号」には、保坂展人氏と小熊英二氏の対談が載っている。「いろいろなところに歪みや不合理がありますが、間をつなげばうまく変えていけるところは多い。そこをつなぐ仕事が、メディアや知識人や政治家や運動家の役割のひとつです」という小熊の言葉に触発される。
孤立している現代の高校生の「間をつなぐ」ことが、教員の仕事。言葉を高め、共同体としてのクラスや学校を、血の通ったものにしたいとオイラは思う。
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(以下、人権新聞の内容です)
上の写真を見たことがありますか。手をつないで前をみつめているふたりの男は、ミッテラン仏大統領とコール西独首相。1984年、大戦で死んだドイツ・フランスの兵士をしのぶ合同式典の一コマです。
ドイツとフランスは、長年対立関係にあった国です。古くはナポレオンの時代から、普仏戦争、さらにふたつの世界大戦と、殺し合いが続きました。お互いを「敵」とみなすイメージができあがっていました。しかし、第2次世界大戦を境に、もうこれ以上、二国で戦争をしてはならないという思いが強まり、和解が生まれ、それが現在のEU(ヨーロッパ連合)に発展したのです。
どういういきさつで二人は手をつないだのでしょうか。もともと式典で手をつなぐ予定はなかったのです。とっさに動いたのはミッテランでした。「コールに今の気持ちを伝えるべきだと強く感じ、手を差し出したら、コールが握り返してくれたんだよ」とミッテランは述べています。
ふたりは数分間、その場でずっと黙って手を握り合っていました。この写真は、現在、ドイツとフランスの、高校の共通歴史教科書の表紙に使われていて、ドイツとフランスの和解の象徴とみなされています。
つながる言葉で世界を満たそう
私たちの周りには、他者を攻撃する言葉や、人のあげ足をとったり、クレームをつけたりする振る舞いがあふれています。国家間でもそうだし、個人間でもそうです。最近とくにこの傾向は強まっています。
もちろんいろいろなところに不合理や対立はあります。しかし、お互いが自分だけのことを考えず、寛容の精神を持てば、多くのトラブルは解決に向かう、そのことを、ミッテランとコールは、世界に示してみせたのだと思うのです。
新しい学年が始まりました。私たちも、よりよい世界を作るために、つながることを意識しなければなりません。まずは身の回りからです。新しい友人をたくさん作ってください。誰とでも、心を開いて接して下さい。アイツは「キモい」「ウザい」なんて言わないで下さい。そしてあいさつをしましょう。つながるための言葉をたくさんつむぎましょう。
皆さん一人ひとりが、いいクラスを、いい学校を、いい社会をつくるための一員であることを強く期待しています。
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以下、雑誌「SIGHT」2013年冬号の、保坂展人氏と小熊英二氏の対談の抜粋。
![SIGHT (サイト) 2013年 02月号 [雑誌] SIGHT (サイト) 2013年 02月号 [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41aMsmzdFDL._SL160_.jpg)
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小熊「もうひとつは、保坂さんがツイートして話題にもなった、区民からのクレームです。そのクレームは「子供が外で遊ぶ声がうるさい」というもので、保育園の子供たちが園庭に出る時間が午前中だけに制限されてしまった。そういう周辺住民のために、行政が防音壁を設置することまで検討されているとか。
「ひどい話ですが、そういう動きが出てくるのもやはり基本的トレンドで、頭から批判するより、うまく活用することが大切です。私がこの話を聞いて思ったのは、「ああ、保育園でこれなら、もう日本に原発は作れないな」ということでした(笑)。
「1950年くらいの記録を見ると、日本の庶民は裁判所に証人として呼び出されると、ぶるぶる震えて話せなかったりした。それが今では区に電話をかけて「うるさいから防音壁を作れ」と言えるぐらいに成長した(笑)。こういうエネルギーをうまく生かす方法を考えるべきです。うまく回路を作れば、青森に原発を作ろうとしたら函館から訴訟が起きるという状況につなげられる。
「そうしたエネルギーが、ポピュリズムやクレームというほうにしかならないのは、回路がないからです。政治の回路もそうですが、コミュニティの崩壊が大きい。保育園に直接話しに行くとか、付近の子供が通っているんだからうるさく感じないとかではなく、そういう周囲と俺は関係ない、ただ音がうるさい、だからいきなり行政にクレームを言う、となってしまっている。そういうところに適切な回路を作ってやれば、もっといい方向にもっていけると思うわけです。
「(中略)いろんなところに歪みや不合理がありますが、間をつなげばうまく変えていけるところは多い。そこをつなぐ仕事が、メディアや知識人や政治家や運動家の役割のひとつです。その場合に、お互いに文句をつける。つまり国民がバカだから仕方がないとか、政治家がバカだから仕方がないとかはもうやめたい。お互いになにかできるかアイデアを提示することが必要です。