週刊エコノミスト2014年9月16日/加藤出「本当は怖い「2%インフレ」の不都合な世界をここに示そう」



 政府・日銀は、物価を2%上昇させようとしている、そのことを何となくフーンとしか思っていたオイラが、この記事を読んで、目からウロコが落ちる思いがした。それは週刊エコノミスト2014年9月16日号、東短リサーチの加藤出氏が、2002年〜2014年、平均2.3%の物価上昇時に、アメリカ合衆国で、モノやサービスの価格がどれだけ上昇したかを書いたものである。衝撃的な物価上昇を、まずはご覧になっていただきたい。


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米国の物価上昇率の実例(2002年〜2014年)


タクシー(JFK空港〜マンハッタン) 30ドル⇒52ドル (73%増)
地下鉄(初乗り)          1.5ドル⇒2.5ドル(67%増)
中華料理(エビ料理)       9.95ドル⇒13.95ドル(40%増)
ステーキ(オールド・ホームステッド) 60ドル⇒98ドル (63%増)
フランス料理(ディナー)       75ドル⇒125ドル(67%増)


エステ(マニキュア)         35ドル⇒55ドル (57%増)
カーネギーホール見学ツアー       6ドル⇒15ドル(150%増)
国連本部見学ツアー         7.5ドル⇒18ドル(140%増)
ミュージカル(オペラ座の怪人)    80ドル⇒147ドル(84%増)
現代美術館              10ドル⇒25ドル(150%増)


 インフレ時の米国では、交通料金、外食価格、観光関連価格は、40%〜150%も大幅に値上がりしている。2002年〜2014年、12年間の物価平均上昇率は年2.3%なので、本来なら、物価は30%ほど上昇する計算になる。だが実際は、特定のモノやサービスの価格は、はるかに上昇するのである。それは、なぜなのだろうか。


 その理由は、大きく値上がりしている品目の他に、大きく値下がりしている品目があるということだ。たとえば、パソコンは、この13年間で84%、テレビは91%も値下がりした。耐久消費財など、激しい価格競争が世界規模で起きている品目は、たとえインフレであっても値上がりしない。2%の持続的なインフレを持続させるためには、耐久消費財以外のモノやサービスの価格が、年2%よりはるかに高く上昇することが求められる。そのなかには、国民の生活には不可欠な、食料、公共料金、医療、教育などのモノやサービスの価格が含まれる可能性は、極めて高い。


 しかも、2%のインフレ目標の中には、消費増税による物価押し上げ効果(消費税が10%になれば3.4%程度の上昇と考えられている)も考慮されていない。加えて、IT化、グローバル化により、多くの人々の実質所得の伸びは、マイナスになる可能性が高い。預金の実質価値も目減りする。政府がインフレを目標にすることで、国民生活の困窮化がもたらされる可能性が高いのである。


 バブル期以降、日本の食料価格は驚くほど安定していた。円高に加え、メーカー、流通、小売の努力があったからだ。これに慣れてしまった日本人がほとんどだろう。インフレの本当の怖さを、日本人のほとんどがまだ実感していないようにオイラは思う。