前田栄作「虚飾の愛知万博



        (光文社ペーパーバックス/¥952+税)



虚飾の愛知万博 (ペーパーバックス)

虚飾の愛知万博 (ペーパーバックス)


 先に紹介した吉見俊哉「万博幻想」が、日本の戦後政治の流れのなかで万博を大観した書であるとするなら、「虚飾の愛知万博」は、愛知万博の開催にあたって起こった様々なドタバタを、ローカルな視点で小察した書である。この2冊で万博の抱える問題点をある程度把握することができる。

 ペーパーバック・スタイルの造本と安手の装丁。反権力的なスタンスが貫かれているが、sugi2000氏のブログ「異見ト妄想。」によると、「この内容は、愛知県人には知られている事実が多い」とのこと。本書がどれだけ新しい問題提起を含んでいるかについてはよそ者である僕には評価できないので、ノンフィクションとしての価値は分からないが、万博という国家的行事の問題点を、地元の視点で批判的に概説してくれているのはありがたい。


 ところで、2004年8月の沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事件といい、この愛知万博開催をめぐる問題といい、地元と中央では温度差が大きい。本書は、愛知以外では見えにくい万博問題を、全国に伝える役割を担う書である。

 愛知万博の問題は、土地をめぐる利権構造・癒着の構造であり、税金の無駄使いであり、硬直化した行政システムと市民運動のスタンスの問題であり、環境と人間の問題である。こうした事柄は、程度の差こそあれほとんどの自治体で問題となっている。愛知の問題は我々の問題でもあるのだ。


入場者本位で考えるなら


 愛知万博の暗部は、本来ならマスコミでもっと深く取り上げられるべきだと思う。

 話は横道にそれるが、愛知万博で「飲食物持ち込み禁止」と「飲食物の高い料金」の批判記事が出たときも、もっとつっこんだ報道ができなかったものか。飲食物の価格は、業者が万博協会に払う「出店料」と業者の意向によって決まる。バカ高い価格設定の裏に、万博協会の一般入場者を軽視する運営はなかったのだろうか。それをきちんと検証することで、マスコミは万博の根本的な問題にまで言及できたと思うのだ。入場料にしても、入場者本位で考えるのなら4600円は高すぎるし、飲食料金にしても、入場者本位で考えるのなら万博協会は最初から弁当の持ち込みを認めるべきだし、百歩譲ってセキュリティ面でそれが難しいなら、リーズナブルな価格で飲食物を提供できるように配慮をするべきだったのだ。

 ええかっこしい小泉首相の発言で手作り弁当の持ち込みが許された件では、業者にとっては、最初決まっていた試算が狂いとんだ災難だろう。読売新聞は「首相に感謝」という見出しをかかげたが、そんな報道で終わらせて本当にいいのか。報道もまた「入場者本位」であってほしい。

 本書は、本来マスメディアが追求すべき内容を補完するものである。こうしたジャーナリズムの存在意義は大きいと思う。



 愛知万博の最大の謳い文句は「環境」だ。だから、会場の造成工事でも、環境には最大限の配慮を払うとされていた。工事中に造成のために掘った穴はできる限り埋め立てに使い、外部からの土は持ち込まないようにすると、協会はマスコミなどで盛んに訴えていた。

 ところが、2003年6月、地元の自然保護グループが海上の森会場を調査したところ、造成工事現場に建築物の解体工事によって発生したと思われる塩化ビニールパイプ、ビニール被覆電線、床材、壁紙などの破片が無数に交じった砕石が持ち込まれていることを発見した。

 産業処理法や建設リサイクル法では産業廃棄物の適正な分別、処理を定めている。自然保護団体は万博協会と愛知県知事に対し、産廃の混入した土砂を持ち込んだ工事の中止を申し入れた。

 それに対し、万博協会は、「協会として事実確認、実態調査を行う必要がある」としたうえで、その前に以下の3点について回答をしなければ、申し入れ事項についての回答はできないと突っぱねた。


 《1 貴会が当協会に持参した物品は、いつ、どこで、誰が採取したものか。

  2 1にいう場所が、当協会の海上地区会場造成工事現場であった場合、立ち入りの際、協会職員又は当該造成工事請負業者関係者からの許諾を受けたか否か。

  3 持参した物品が当協会の海上地区会場工事現場からのものであるならば、可及的速やかに、協会職員立会いの下で現状回復すること。

     (財)2005年日本国際博覧会協会会場整理グループ》


 万博協会側のこの返答には、さすがに誰もが驚いた。会場内の造成工事に違法産廃を使っていることへの反省は全くなく、逆に不法侵入したと自然保護団体に脅しをかけているからだ。その後、万博協会から会場造成工事に使われた産廃についての回答は全くない。だから、いまでも「万博会場周囲は産廃だらけ」ではないかという疑念がくすぶっている。(134ページ)


 以上引用。こういう話は枚挙にいとまがない。硬直化した行政システムとレベルの低いいやがらせ。行政と市民(団体)の意志疎通がもっと柔軟になされるようにすることはできないのだろうか。

     

 「万博幻想−戦後政治の呪縛」のフルタルフ・レビュウ   http://d.hatena.ne.jp/furuta2001/20050327/p1