小出裕章氏講演「原子力の専門家が原子力に反対するわけ」2011.3.20(日)於アクティブやない 第4回


 ここにひとつ、ちょっとした、変わった図を書きました。左の方に赤い帯が書かれている。数字が2から8まで並んでいる。これは私は何を書いたかというと、こんなことです。この数値は、全身の被曝線量です。グレイという単位を書いています。今皆さんは、シーベルトという単位をときどきマスコミで聞くかもしれませんが、それと同じだと思っていただいて基本的に結構です。2シーベルトでもいい3シーベルトでもいい、そういう単位です。では、上に0・50・100と書いてある、これは何かというと、急性死亡の確率です。つまり、2グレイという被曝をしてしまうと、まあ2シーベルトでもいいですが、死ぬ人が出始めます。でも、帯の幅が小さいですよね、だからまあ、何パーセントの人が死に始めるということです。


 被曝量が多くなってきますと、赤い帯の幅が太くなっているのがわかると思いますが、4グレイ、あるいは4シーベルトという被曝をすると、ふたりにひとりは死にます。8シーベルトという被曝をすると、全員死んじゃう。こういうことが、放射線を使いはじめて100年間の歴史の中で、科学的に分かってきた知識なんです。4グレイの被曝をすると、半分の人が死ぬと私は言ったわけなんですけれども、被曝というのは、放射線からエネルギーをもらうということなんです。エネルギーをもらうという単位をグレイという単位で測っているんですけれど、4グレイという被曝をしたところで、私なら私の体温は1000分の1度しか上がらない。


 皆さん風邪ひきますよね。私だって風邪をひく。病気になります。なぜか体温が上がる。体温計で測って、あ、なぜか38度になっちゃった。ああ、何か体だるいなあ。というようなことはよくあることだと思います。体温が一度や2度あがるということはよくあることだろうけれども、人間は死なない。安静にして、栄養を取って、まあ薬を飲むこともあるかも知れないけれども、そんなことでは死なないというのが人間ですけれども、こと放射線に被曝するときには、体温が1000分の1度あがると、2人にひとりは死んじゃう。体温が1000分の2度あがると全員が死ぬ。


 JCOの事故で被曝した大内さんと篠原さんは、18グレイとか10グレイとかいう被曝をしている。当然助からない。放射線医学総合研究所が治療を拒否したとさっき私は言いましたけれど、放射線医学総合研究所にかつぎこまれて、放射線医学総合研究所が、大内さんと篠原さんがどれだけ被曝したかということを評価したんですね。そうしたら18とか10とかいう数字が出てきてしまって、これはもう助けられない。放射線治療を専門としてやってきた自分たちには一番よくわかる。どんなことをやってもこの彼らを助けることはできないと言って治療を拒否した。そして東大病院にかつぎこんだけれども、やっぱり助けられないで死んでしまったということになった。何でそんなことになる。体温で測れば1000分の1度としか1000分の2度しかあがらないのに、何でそれで死ななきゃならないのか。というと、そこに放射線というものの基本的な性質があります。


 私はさっき、生き物というのは不思議だと言って、私なら私が生きていくために、私の遺伝情報がすべてを司っていると言った。私の遺伝情報は、DNAという分子に、すべてが書き込まれている。橋がどういうふうに並んでいるかということで、私が、私という命が支えられてる。言ったわけですが、その橋の並びをささえているエネルギーというのがあるんですね。お互いに手をつないで結びつけあっているエネルギーが、これはどれくらいかというと、数eVと私ここに書きました。これ説明すると面倒くさいんですけれどエレクトロンボルトという単位で、とてつもなく小さなエネルギー体です。測ることもできないような微少なエネルギーで私の遺伝情報が書かれて、それが細胞分裂をしながら、体を支え、私の子供たちにそれが伝わっていっているということなんですけど、それを支えているエネルギーはエレクトロンボルトという単位で測ると、2とか3とか4とかそのくらいのもので支られている。 


 では、放射線とはどういうエネルギーかというと、皆さんが病院で撮影を受けるX線のエネルギーというのは、100Kと書きました、これキロです。キロと言うのは1000倍という意味です。わかっていただけますね。100キロエレクトロンベルト。つまり、私の体を作っている遺伝情報、私の体を支えている遺伝情報を作っている分子結合のエネルギーから比べると、もう何万倍も10万倍も高いというぐらいのエネルギーが、X線として飛んでくる。だから、大変便利は便利です。X線撮影をしたら、私の骨が曲がっているぞとか、私の肺にガンがあるぞとか、みんな見えてしまうわけですから、お医者さんは使いたがります。みなさん病院に行ったら、皆さんすぐに何でもかんでもX線撮影と言われることもよくあります。お医者さんは便利なので、さんざん使いたがるけれども、でもそれをやると、私の体が放射線で被曝をして、遺伝情報がどんどん壊されていくということです。決して喜んでこんなものを受けてはいけない。


 それから、セシウム137という放射能があると先ほど私ちょっとだけ言いましたけれども、それは、ガンマ線という放射線を出します。そのエネルギーは661キロエレクトロンボルトです。私の体を作っている分子結合のエネルギーから比べると、もう10万倍も大きいという、そんなエネルギーの塊が、私を被曝させるということです。チェルノブイリから、私の職場まで飛んできて、私が吸い込んでいる空気の中にあった放射能は、さっき聞いていただいたのがそれですけれども、そんなものが飛んでくるし、今福島の原発で事故があって、東北地方、そして東京あたりまで汚染を広げているというのが、こういう放射能の正体です。


 今日は聞いていただくことができませんが、青森県六ヶ所村で、再処理工場という、とてつもない危険なものを取り扱っています。そこではプルトニウム239という放射能を取り扱っています。それはほとんどアルファー線という放射線を出すんですが、それは5.1Mと書きましたが、これはミリオンという単位です。ミリオンというのは100万倍という単位です。そういうエネルギーを出す。そんなものが、ようするに生命体に被曝を与えている。ということで、ぼろぼろになってしまう。そういう相手が放射線というものです。