Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!



永遠の少年は海をめざす


 ローワン・アトキンソン主演の「ミスタービーン」2007年の作品。
 ビーンは、自閉的で、社会に適応できそうもない男。しかし、母性本能をくすぐるチャーミングさや純情さが魅力。コトバをほとんど発しない彼は、サイレント期のコメディアンを連想させる。


 しかし、「観客を笑わせる」というよりは「観客に笑われる」という芸風で、プリミティブなギャグも多く、観てると、こちらが恥ずかしくなる。ちょうど「寅さん」のベタなギャグシーンを観ているような、居心地の悪さ。ナンセンスの先達であるキートンマルクス兄弟、完全主義者のチャップリンなどと大きく違う。

 
 でも、作品の出来とは別に、個人的にはとても感動した。もう思い入れだけで星5つ。


 感動したのは、傷つきやすそうで自閉的なビーンの姿に、オイラの姿が重なったからだ。あのダメさはひとごとではない。運転中に眠りかけて、手にかみついたりするシーンを観て、(ああ、オイラもあんなことするよなあ)と我が身を振り返って、とても恥ずかしくなった。


 また、ドラマ的には、カンヌの海をめざすという展開が、とてもいい。
 海でのスイミングがいいのは、羊水の中に浮かんでいた、胎児のころの記憶が呼びさまされるからかも知れない。仕事など現代のストレスから逃避するためには最適。


 考えてみれば、海はすべての生物の故郷。海をめざすのは、アユやサケだけではない。ヨーロッパの人々は、バカンスと称して南地中海を目指し大陸大移動を行う。海へ還る、というのは、生物的にいっても、極めて当然の行動なのかも知れない。


 また、海は母性の象徴である。どこか母性本能をくすぐる、永遠の少年であるビーンが、母なる存在である海をめざすのも、しっくりくる。

 
 だからオイラは、ラストのビーンを見て、ただごとではない至福感を覚えたのである。「ミスタービーン」を見て泣かされるとは。カンヌの海岸に着いたときに流れる「ラメール」は、ベタだけれど、とてもいい。