森昭彦「うまい雑草、ヤバイ野草」サイエンス・アイ新書



 食べられる野草(雑草)を紹介し、料理法を印した本であるが、ただ羅列しただけの本ではない。おいしい野草と、よく似た猛毒草を並べ、誤食を防ぐために見分け方を解りやすく解説している。


 オイラは幼年時代四国山脈の山間部で育ったこともあって、野草についての知識が少しだけある。今でも、気が向くと、野草を摘みに行く。特に、春は、時期により次々においしい野草が生えてくるので楽しみな季節。知識があると、雑草を見る目も変わり、楽しい。


 見開き2ページの右側に写真、左側に解説。この解説が名文で、著者の植物に対する豊富な知識や愛情が伝わってくる。可憐な野草の姿や匂いが立ち上がってくるかのようだ。おいしそうな料理法も味わい深い。


 面白いなと思ったのは、捕食者(人間)と被捕食者の間に、奇妙なバランスが存在することだ。たとえば、サフランのように食用にされるものでも、一定の量を越えると致死量になる。サフランはパエリア、リゾット、サフランライスなど、各地の名物料理に欠かせない高級スパイスであるが、1日に5g以上食すると、めまい、嘔吐、血便や血尿、粘膜部からの出血を引き起こす。12〜20g以上摂取すると死に至る。
 ヤマトリカブトは、アルカロイドを含み、人が摂取した場合、舌先が痺れ、嘔吐。痙攣に襲われつつ、強力な麻痺が全身に広がって呼吸が止まる。しかし、微量であれば強壮薬・強心剤・興奮剤として珍重される。


 やっかいな猛毒草も、ときには薬であるし、高級スパイスも、ときには我々を死に誘う。おいしいと思っていた野草も、別種を誤食したら中毒症状が出る。食するというのは、緊張感を伴う行為である。すべてつきあい方なのだ。


 それは、なんとなく人との付き合い方にも似ている。正しい知識(理解)と、細心さと緊張感を持って、雑草とも人とも向かいあいたいとオイラは思う。



 セリ。春の七草のひとつ。人里に近い水辺に群落を作る。春先の若い葉をお浸しにしていただく。歯ごたえもよく、抜群においしい。ドクゼリ、キツネノボタンとの誤食に注意。