『TPPに反対する理由1/2』三橋貴明 2011.8.23



 (内容要約)TPPへの交渉に参加すると約束してしまうと、日本のTPP加盟がかなりの確率で決まってしまう。TPPへの参加は国会の議決が必要なのだが、TPP交渉への参加は内閣総理大臣が「参加する」と言えば参加できてしまうのである。


 アメリカは日本と同じような需要不足に悩んでいる。本来であれば財政出動によって、政府が需要を作り出し、失業率を下げるということができる。しかし、8月初めの連邦政府の債務残高上限問題でもめにもめ、財政出動が「できない」ということになった。ではどうするか。それでは外国の需要を頂戴いたしましょう、という動きが強まってきているのだ。


 2011年1月26日にオバマ大統領は、一般教書演説で以下の通り話をしている。
 「輸出事業を支援するために、我々は2014年までに輸出を倍増する目標を掲げた。なぜならば、輸出を増強すれば、我が国において「雇用を創出」できるからだ」
 雇用創出のための輸出ということは、相手国が作っていたものを、アメリカが作って売りつけるということである。つまりこれは、相手国の雇用を奪い取るという宣言なのである。


 その後にこう続けている。「すでに我が国の輸出は増えている。最近、我々はインドと中国の間で、米国内において25万人の雇用創出につながる協定に署名した」アメリカで25万人の雇用が生まれるということは、人件費を考えたら、インドや中国では、それ以上の数の雇用が失われるということである。
 「先月は、韓国との間で7万人の米国人の雇用を支える自由貿易協定について最終的な合意に至った」これも同じことで、韓国の雇用を奪うということである。そして「私が署名する貿易協定は、米国人労働者を守り、米国人の雇用創出につながるものに限るだろう」と。つまり、オバマ大統領は、アメリカ人の雇用が生まれるのであればサインするが、雇用を生まないなら、サインしないと言っている。


 TPP諸国のGDPで見ると、アメリカが7割、日本が2割。残り経済大国はない。ここに日本が入らないと、雇用を奪い取るという点では、アメリカにとっては全然魅力がない。


 TPPを推進する人々の論拠や思想の中に、自由貿易はすばらしいという考え方があって、その元にはリカードの比較優位論というのがある。各国は、比較優位にある品目を輸出して、比較劣位の品目を輸入しあえば、もっとも国民は利益を得るだろうという考え方である。これはふたつ大きな問題があって、比較優位論が成り立つには「資本移動がないこと」が前提である。農業や資源などは資本の移動がないので比較優位が成り立つ可能性が高い。その結果、日本は現在、比較優位に近い状況になっていて、2009年の穀物自給率が28%。ヨーロッパの主要国と比べても圧倒的に低い。