『TPPに反対する理由2/2』三橋貴明 2011.8.23



 (続き)これが資本の移動のできる品目に関してはどうなるか。たとえば自動車は、日本から企業が中国に移動して、工場を作ることによって、あまり品質の変わらない製品ができてしまう。つまり、製造業はコストの安いところに移動して、そちらで生産した方が利潤が高まるという話になる。比較優位もあったものではない。日本の雇用が消えて中国の雇用が増えるということになる。


 現代の世界の問題は、失業である。アメリカは9%、ヨーロッパはスペインとかは20%、軒並み15%を超えている。日本は5%。とても低い。よく自由貿易論者の人が言うのは、単純労働的な製造業が外国に移転すると、残された日本の労働者たちは、より高度なサービス産業とかに就職できる、というが、そんなもの夢物語だ。すでにそのサービス産業には労働者がいるわけだから、新たな労働者が参画して、人件費は下がらざるを得ない。小泉政権下のサブプライムバブルの影響で輸出が増えたときでさえ、日本では平均給与が下がっていった。デフレとグローバル化の現在、なぜ今、アメリカの要求のままTPPに入らなくてはならないの、というのが一点。


 で、もうひとつ、リカードの比較優位論が機能するのは、セイの法則が成り立っていることが前提である。セイの法則とは、供給能力を高めれば、自然と需要が増えるというものである。これが成り立つには条件がある。インフレ期であれば、モノが足りないから需要も増える。ところが今の日本は供給能力が余っている。供給能力を高めても需要は高まらない。なぜか。それは今がデフレだからだ。今TPPをやると、間違いなく物価が下がる。それはさらなるデフレの促進要因となる。


 デフレの国にとって、自由貿易はやらない方がいい。TPPを推進する人は、自由貿易はすばらしいという神話や、日本は輸出依存度が高いという事実無根な思い込みをもとに、TPPだと言っている。日本は輸出依存度はGDP13%。韓国のように、GDPの46%が輸出に依存しているなら分かる。しかし、日本の輸出依存度は低い。それなのに、日本が韓国と同じことを考えないといけないのか。


 自由貿易がすばらしいというんだったら、オバマのいうこともおかしい。自由貿易がすばらしいというのであれば、なぜ自分たちの雇用の話をするのか。自分たちの雇用のための自由貿易ということだから、その分他国に生産やサービスの供給をさせないで、自分たちの労働者で生産またはサービスの供給をするということである。もともとアメリカの輸出額は大きい。2009年のアメリカの輸出は、サービスと財を合わせると、1.6兆ドル。日本円換算で140兆円。それを倍にするということは、新たに140兆円分を外国に売りつけて、需要と雇用を相手から奪い取ると宣言しているにほかならない。アメリカが自分たちの雇用を確保するためにTPPをやると言っているのにと言ってるときに、なぜデフレの国が「はいわかりました」と自由貿易協定を受け入れなくてはならないのか。まず雇用は悪化する。モノの値段は下がる。リカードの比較優位論は成り立たないのに。


 もっとまずいことに、日本とアメリカがTPPをやると、日本が損をしてアメリカが得をするのではなく、日本もアメリカも損をするという状況になる可能性が極めて高い。