国を滅ぼすTPP 推進者の巧妙な手口・ダマしの数々2/2【中野剛志】



 (内容要約/つづき)仮にハイチのような経常収支赤字国でも、世界銀行からお金を借りて、国民を助けるのが普通の国家というものだ。我が国は、巨万の富を抱えながら、被災者を助けようとしない。


 TPPの内容の問題点は、いろいろ本に書かれている。東谷 暁氏と関岡 英之氏の本を参照しつつこれから話をする。とくに関岡英之氏は年次改革要望書の延長としてTPPがあることを早くから見抜いていた人である。


狙いは農業だけではない


 アメリカが狙っているのは、農業だけではない。アメリカの公表されている公式文書の中にも、アメリカが何を求めているかが書かれている。牛肉の参入制限(BSE問題)、銀行、保険。郵政、アメリカ産自動車の参入制限などが問題と言っている。アメ車の参入制限、詳しく言うと、エコカー減税非関税障壁になると言うことである。


 環境規制を撤廃しないといけないということになるという例として、カナダの例をあげる。カナダは北米自由貿易協定というのをアメリカと結んでいる。カナダは自国民の健康を守るために、神経性の有毒物質をガソリンに混ぜることを禁止していた。アメリカでは使っていい物質だったために、アメリカの燃料メーカーは、北米自由貿易協定(ISD条項)にしたがって、カナダ政府を訴えた。結果、カナダ政府が負けて、環境規制を撤廃することになった。自国民の健康を自国の基準で守ることができなくなったということである。このISD条項は、米韓FTAでもねじこまれている。


 もうひとつ例は保険である。アメリカは日本の保険市場がほしい。なぜか。アメリカにAIGという世界最大の保険会社がある。ここがリーマンショックで破綻したので、アメリカ政府はこれを救済して国有化した。つまり、アメリカの保険業界は、アメリカ政府そのもの。税金を投入したので、アメリカ政府は何としてもAIGを助けたい。文書にはこう書いてある。「アメリカの保険市場はアメリカに次いで大きい」何を狙っているかというと、簡保と共済と書いてあった。これらは完全にターゲットにされている。現に米韓FTAでも、共済はけしからんとねじ込まれてしまった。おかげで韓国ではFTA協定発行の3年後から、農協や水産業の協同組合や信用金庫が、一般の保険会社と同じになってしまったのである。


「交渉に参加しよう論」を受け入れてはならない


 こんな中身はまったく議論せずに、とにかく交渉に参加しましょうということだけが言われている。いったん交渉に参加してから、ルールが不利だったら不参加を表明すればいいという意見もあるが、これは絶対にやっては駄目である。その理由は、ルールの有利不利とかいうが、ルールの有利不利を交渉参加者が定義したことなどない。TPPは農業だけの問題ではなく、24の分野がある。つまりTPPによってできるルールのバリエーションは無数にある。それから、米の関税ひとつとっても、米農家にとっては、米の関税を死守することが有利なルールだが、原理的なTPP論者にとっては、米の関税が撤廃されることが、日本にとって有利なルールである。


 もっとまずいのは、いったん交渉に参加すると、抜けられない構造になっている。そもそも、TPP参加の前に交渉参加という段階を踏むのか。これはわかりやすくいうと、交渉参加=婚約、参加=結婚のようなもの。参加することが前提で、お互いに知らせる情報も多い。それを聞いたうえで、やはり不参加ということになったら、アメリカが激怒する。11月のAPEC首脳会合がハワイで行われる。ハワイはオバマの故郷。ハワイでの会合のオバマの成果になるのは「日本がTPPの交渉に参加した」ということである。TPPは日本がターゲットだからだ。来年はアメリカの大統領選挙。オバマは支持率が低い。これを大統領選挙に対するステップにしたい。


 ここで日本が交渉に参加すると言ったら、オバマはガッツポーズである。そのときに、突然日本側が「やっぱりルール不利なんで」といって抜けるということになれば、オバマの面目丸つぶれである。いきなり裏切るなよと激怒する結果になる。オバマはハワイで不意打ちをくらうわけである。私はハワイの奇襲は一度だけにしておいた方がいいと思う。


 これがTPP推進論者の狙いである。いったん交渉に参加すると、ここから抜けると大事な日米関係がおかしくなると思ったら、ほとんどの反対していた政治家もおじけづく。黙らざるをえなくなる。逆にいうと、絶対に抜けられないということになったなら、どんなに不利なルールでも、受け入れざるを得なくなる。よって「交渉に参加しよう論」を受け入れることは絶対にまずい。なんとかして交渉に入る前に阻止しないといけない。


 しかし状況は難しい。どうにも阻止ができない。マスコミやテレビも反対論をガン無視である。したがってこのヴィデオの拡散よろしくお願いします。