祝の島(ほうりのしま) その1



 中国電力が、瀬戸内海に面する山口県の上関町に建設計画中の上関原発に、祝島の人たちが中心となって反対運動をしていることはオイラ知っていたが、そこに住む人々の実相について知ったのは、昨日のエントリーで触れた「SIGHT/2012年冬号」が初めてだった。「総論対談/内田樹×高橋源一郎」である。「原発を作らせない」「沈む日本で楽しく生きる」この両方を実現している場所が、今、この日本には存在する」それが祝島であると言うワケ。高橋源一郎が対談の中で、祝島の人々の様子を紹介している。祝島を語るときの、高橋源一郎のワクワクした感じが行間から伝わってきて、とても印象に残った。そのサワリを紹介しよう。


SIGHT (サイト) 2012年 01月号 [雑誌]

SIGHT (サイト) 2012年 01月号 [雑誌]


 30年間、1400回のデモ


 高橋「(祝島では)30年間、毎週月曜夕方にデモをやっていて、そのデモに参加しに行ったんです。1400回以上だって。・・・・今の代表の藤本さんが、56か57。だから、始まった当時は20代。そのデモは、とにかく休まず、ずーっとやってるんです。今まで、この時だけは休みっていうのがあって、それは、デモ参加者の身内に不幸があったとき。あと、最近加わった休みの理由があって、雨の日と風の日。みんな高齢者だから(笑)」


 高橋「ときどき「原発、反対!」「原発、はんたぁーい!」って。で、みんな歩きながらずーっと世間話してんの(笑)。「今日の晩ごはん何にする?」とか、「うちの嫁がねえ!」とか。で、ときどき、「ふるさとの海を守れ!」「ふるさとの海を守れぇ!! それでね、今晩の−(笑)」
 「30年ずっと反対してるんで、原発はできてないんだよね。祝島の漁協に、中国電力から強制的に、漁業補償金が10億6000万円振り込まれたんだけど、供託しっぱなしで受け取ってない。


 高橋「・・・・だから、もう当人たちは、よく分かっててね。この島全体が後期高齢というら、歳を取って死んでいくということを、みんな静かに受け入れてる感じ。でも、考えたんだけど、たとえば10億円、普通受け取るでしょ。で、どうするか? たとえば1000人で分けると100万円。100万円もらっても使い道がないんだよ。島ではお金いらないから。そうすると、島を出て行くしかない。


 なんであんなに楽しそうなんだ?


 高橋「つまり、本当にお金は必要か?っていうことを考えちゃったの。たとえば、歳を取って、100万円もらって、島を出て行って。医療費かかるでしょ? 養老院に入ると高いじゃない。島にいるとどうなるのかというと、孤老なんだけど、具合悪い人のところにみんなワッと来るわけ。・・・・この人たちはお金使わないで、集まってみかん食ってるんだ(笑)。みんな仕事しているせいもあるし、食べ物も自分のところで釣った魚を食べて、自分のところで作った野菜を食べてるせいもあるし、すごくけわしい場所をいつも歩いているから元気。で、元気がなくなると、隣近所から人が来る」


 内田「不思議だよね。成長戦略を語ってる人間が、暗くて不幸そうで、長期低落傾向のしんがりを戦っている人が楽しそうで、っていうの。
 高橋「そうだよ。「なんであんなに楽しそうに言ってるんだ?」と。・・・・つまり、原発問題っていうよりも、日本の未来の話なんだよね。これからの高齢化社会シュリンクしていく社会をどうすればいいのか、って考えるとき、「あ、こうすればいいんだ!」って、いい例なんだ」


 この対談を読み、祝島と、その原発反対運動に興味の湧いたオイラは、祝島原発反対運動の様子を描いたドキュメンタリー「祝(ほうり)の島」をDVDで見ることにした。映画の中には、高橋源一郎が語っていた、共同体のなかの人々の日常的な生活の様子が描かれているのだが、今日は時間なので、映画の感想は明日のエントリーの中で。(つづく)