SIGHT/2012年冬号「原発報道を終わらせようとしているのは誰だ」


SIGHT (サイト) 2012年 01月号 [雑誌]

SIGHT (サイト) 2012年 01月号 [雑誌]


 「SIGHT」は、ロッキング・オンより刊行されている季刊誌。「リベラルに世界を読む」というキャッチフレーズどおり、社会の矛盾や問題意識から目をそらすことなく、まっすぐ「今のリアル」と向かい合おうとする手つきがとても誠実で、とても好感が持てる硬派な雑誌である。最新号では「原発報道を終わらせようとしているのは誰だ?」というタイトルが挑発的。編集・発行人の渋谷陽一は、編集後記で次のように述べている。


 「今号の特集タイトルである原発報道を終わらせようとしているのは誰だ」という疑問に対する答えは、「私たち」である。この特集で分析しているように、国やメディア、そして東電の責任は重く、彼らが、原発問題をまるで終わったことのように誘導している犯罪性は、厳しく追求しなければならない。しかし同時に国民の側にも、もう原発報道はいい、嫌なことは知りたくないし、考えたくないという気分が広がっていることも確かだ。なぜ、人は歴史から学ばないのか、と過去の悲劇を検証するたびに思うが、まさに今、自分がその当事者として歴史と向かい合っている、という重苦しい気持ちになる。常に自戒をこめて、SIGHTはこの問題を考えていきたい(248ページ)」


 事故発生から10ケ月。原発事故の報道も少なくなった。国民の関心も薄れているように思える。政府や既存メディアからは、原発事故を明らかに収束の方向へ持っていきたいという意向が透けて見える。「わかっていることでも言わないし、調べればわかることでも調べない。とにかく、すべてを曖昧にしたままでキープしようとしている。そして、だんだんほとぼりがさめていくのを待っている。行政や東電の動き方を見ていると、そういう腹づもりなのだとしか思えない(90ページ/兵頭慎司)」これだけの問題に直面したというのに、我々は、行政や東電の思惑通り、またもや忘れさろうとしている。原発について特集を3号連続で組んできたSIGHTは、そうした我々の怠慢を、はっきりと指摘する。原発は私たちの問題である。今こそ我々が変わらないといけないのに、実際は正反対の方向へ進んでいる。そのことをオイラは再認識させられた。読むべし。


 例によって、示唆に富む箇所を2ケ所ピックアップ。


国民にはデータを出さない官邸 古賀茂明(元経済産業省大臣官房付)


 彼ら(ドイツ人:引用者注)がすごく言うのは、「なんで日本の政府と日本のマスコミには、消費者のためっていう意識がないんですか? 驚いちゃいますよね」と。SPEEDIの話とか、彼らから見ると、ものすごく不思議らしいんですよ。それで、シュピーゲル(ドイツの週刊誌)が、ウェブ版で放射能の拡散の様子のシミュレーションを画像で流したじゃないですか。そんなデータはないとか言っていたんですよ、官邸は。だけど、シュピーゲルがどうやって、「この風向きでは放射能はこういうふうに流れる」っていう数値を出したのかというと、なんのことはない、あの元のデータ、全部気象庁なんです。日本気象協会IAEAとかの国際機関に報告したデータをもらって、どこかの研究所が計算した数値を、シュピーゲルが掲載した。だから、元のデータがあるんですよ、気象庁には。IAEAにはそのデータを出してるのに、国民には出さないわけです。ドイツの新聞記者とかから見ると、「なんであれ出さないんですか? 考えられない。ちょっと間違えば殺人罪みたいなもんだ」と。しかも、それをマスコミが全然批判してない、理解できないと。アメリカの有力紙の記者が、「日本の新聞記事って、読んでも全然参考にならない。嘘ばっかり書いてあるんですよね」と言うんですよね。(95ページ)


自分の価値観で考えるということがやっと始まった 上杉隆


 でも本当に、不幸中の幸いなのは、自由報道協会も含めたインターネットやSNSなどのマイクロメディアの存在のお陰で、官報複合体の欺瞞に気づいた人が少なからずいるということなんです。それが、若い世代を中心にどんどん広がっていっているというのが、半年前の比べて僕が元気になった最大の理由なのかなと思います。


 それに、僕が今「原発容認」だとか、「TPP警戒」と言っても、受け手がそれに簡単に左右されなくなっているんですね。要するに、「上杉は正しかった」と言っている人に限って、僕の意見に対して「違うんじゃないの?」とちゃんと言ってくれる。ああ、日本は健全な方向へ向かっているなあと感じます。


 そういう意味では、やっと日本の言論空間で、それぞれの人が自分の価値観で考えるということが始まったのかなと思いますね。人の人生で言うと、ヨーロッパの言論社会空間はもう大学に入ったり卒業したりしていて、中国でも、小学校や中学校に入っている人が多くなっているとすれば、日本人だけがみんな、一貫して幼稚園に通っている状態なんです(118ページ)。


 インタビュウで登場するのは次の方々(内田樹氏と高橋源一郎氏の対談については、後日別の機会に触れることにする)。


 桜井勝延南相馬市長)
山田真(小児科医・八王子中央診療所理事長)
山内知也(神戸大学大学院海事科学研究科教授)
田中三彦(翻訳家/サイエンスライター
藤原帰一国際政治学者/東京大学法学部・同大学院法学政治学研究科教授)
古賀茂明(元経済産業省大臣官房付)
上杉隆(ジャーナリスト/自由報道協会代表)
内田樹(哲学者・神戸女学院大学名誉教授/武道家・凱風館館長)×高橋源一郎(文芸評論家/作家/明治学院大学教授)