雑誌SIGHT2013年秋号



 古賀茂明氏のインタビュウを読んで、福島第一原発汚染水処理問題について整理。これも授業で生徒に話をした。


 「傾斜のあるタンクに汚染水を入れ過ぎた」「移送するタンクを間違えた」「配管にビニールシートを忘れた」「誤って電源ボタンを押した」など、東電はあからさまにわざと不手際を演じ、マスコミ相手にのらりくらりナメた対応をして「汚染水処理は国が前面に立て」という世論を作った。国も東電も、そうした世論が醸成されるのを待っていた。前面に立つということは、汚染水対策に国費を好きなだけ使うということだ。それは税として我々が出したカネである。


 本来、事故処理にかかる費用は東京電力で負担しなければならないものだ。資産の売却や報酬カット、リストラの徹底など、やるべきことはたくさんある。そのうえで足りなければ、次の手段が破綻処理であり、国民負担をお願いするのは、その後である。だが、政府は東電の破綻処理に否定的ときている。


 国が東電を破綻させないから、国の東電への融資のかなりの部分が、銀行への借金返済にあてられ、消えている。責任を取るべき経営陣や債権者(銀行や保険会社)、株主が責任(損)をとらず、代わりにその分を増税や料金値上げなどの国民負担や、原発の再稼動で、国は埋め合わせをしようとしている。汚染水も垂れ流しだが、いまのままでは国費も垂れ流しだ。


 元経産省官僚の古賀茂明氏は、裏事情をこう解説する。
 「3月11日に事故が起きて、原発が爆発して、大変だ、東電もうダメだって、株価が暴落する中で、3メガ銀行は目をつぶって東電に合計2兆円貸したんです、3月末に。緊急融資、無担保ですよ。しかも最優遇金利で。(略)どう考えてもおかしいでしょ、株価が暴落してつぶれそうな企業に、無担保、最低金利で2兆円貸すっていうのは。普通に考えれば特別背任罪ですよ。(略)それでも貸すっていうのは、絶対につぶれないっていう確証がある、それは何かというと、当時、経産省の次官と、三井住友銀行の奥(正之)頭取との間で、「とにかくここで2兆円緊急融資して、とりあえず東電を支えてほしい。その代わり絶対につぶしませんから」という口約束があったと言われてるんですね」(38ページ)


 それが「東電はつぶせない」という方針ができてしまったきっかけだと古賀氏はいう。「これ、明らかに責任を取る順番がおかしい。最初に経営者とか、東電の社員、それから株主がいて、銀行がいて、それでもどうしても足りなければ、電気料金を値上げし、さらにその次が税金、っていう順番で負担するはずなんですよね。それなのに、東電をつぶせないっていう大前提があるから、いきなり税金とか、いきなり電気料金値上げっていうことになっている」(39ページ)


 東電を破綻処理すれば、融資先へ支払っている借金返済分が浮く。債権9割カットして、その額約3.6兆円。すでに国が出資した1兆円をここから棒引きしても、3兆弱の国民負担が減る。これを遮水壁建設費に回せば、汚染水対策としてお釣りがきて、国費投入も避けられるし、電力料金upも回避される。柏崎刈羽原発の再稼動もしなくていい。つまり、国民本位の、もっとも常識的な解決策は、東電の破綻処理である。


 雑誌SIGHT2013年秋号の古賀茂明氏や山内知也氏へのインタビュウを読むと、福島第一発電所の汚染水漏れ事故の状況と背景がよくわかる。必読。


週刊現代 2013年 8/31号 [雑誌]

週刊現代 2013年 8/31号 [雑誌]


 安倍首相は、10月17日の衆議院本会議で「被害者への賠償や、現場で困難な事故収束作業に必死にあたっている関係企業への債権が支払いできない恐れがある」述べ、東電の法的整理に否定的な考えを示した。http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/business/20131017-567-OYT1T00845.htmlだが、こうした一連の国の方針について、古賀氏は「脅しとすり替えのレトリック」という。


 「国は、「東電は破綻していない」と言い張る。しかし、東電は事故処理の費用が払えない。払うべきものを払えないことを破綻というのだから、国の論理こそ「破綻」している。すると、出てくる理屈が、「破綻すると事故処理ができなくなる」という脅しだ。しかし、破綻させてもさせなくても、不足分を国が負担して東電が事故処理するのは同じだ」


 「次の脅しは、「破綻させると、国は1兆円の出資を失い、国民が損をする」。1年前の政府による東電への1兆円出資のことだが、破綻処理すれば、銀行債権4兆円弱は殆ど棒引きにできる。1兆円の出資を失っても差し引き3兆円近く国民負担が減る」

 
 「すると次の脅しが、「被災者の債権もカットされて賠償ができない」だ。それは、別途国が負担する仕組みを作れば済む。純粋に被災者のためなら国民も納得する。いまは、国民の税金で銀行の借金返済が行われている。脅しは続く。「破綻させると銀行が追加融資をしないから、事故処理ができなくなる」。これも嘘だ。支払い能力がない東電に銀行が貸しているのは、将来、税金か料金で穴埋めすることが前提になっているからだ。それなら、国が保証してやれば同じことだ」


 (古賀茂明「日本再生に挑む:官々愕々 東電を今こそ破綻処理せよ」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36765