成井豊「成井豊のワークショップ−感情解放のためのレッスン」演劇ぶっく社


 初版は2000年3月と古い。2010年に新装版も出た。演劇集団キャラメルボックス成井豊氏が、プロの役者になりたい人のために書いたワークショップのテキスト。俳優養成において、もっとも大切なのは「感情解放」であるという信念に基づいて、感情解放をなしとげるための基本練習を、懇切丁寧に紹介している。キャラメルボックスの役者も、この感情解放のレッスンを行っていると言う。現場で鍛えられた内容には説得力があるし、惜しみなく役者育成のノウハウを公開するサービス精神に脱帽。


 AMAZONマーケットプレイスで中古本が何と2円(!)だったので、早速部員数を購入。ピンク・フロイド風に言うと「広めよ部長、読めよ部員」だ。


 以下、オイラの印象に残った成井豊の言葉を。
 「下手な役者はすぐに演技をしたがる。科白の言い回しを考えてきて、それを発表するのが稽古だと思っている。芝居だと思っている。考えてきた言い回しを再現するために、テンションもパワーも抑える。声もあまり大きく出さない。だから、信じられないほど暗くて地味でわざとらしい演技をする。


 「下手な役者は、テンションが圧倒的に低い。一般人に毛が生えた程度で、とてもじゃないけど、お客さんに見せられるような代物じゃない。(略)僕は芝居を演技の展覧会にしたくない。役者たちが今、舞台の上で必死に生きている。そして、精一杯楽しんでいる。そんな姿を観客に見せ、役者たちの発散するパワーを観客にぶつける。それが芝居だと思っている(略)。


 「演技において、まず大切なのはテンションであって、パワーではない。声だけ大きくても、本当に感じていなければ意味がない。が、駆け出しの役者はどうしてもテンションが低い。そんな時は、とにかくパワーを出せ。必死で出せ。その必死さは、きっと観客に伝わる。そして、自分自身にも。パワーを出すと、自然とテンションが上がってくる。大きな声で怒っていると、本当に腹が立ってくる。それは、必死に声を出そうとする気持ちによって、心が動くからだ。(135ページ)


 勤務校の演劇部の方向性は、キャラメルボックスとはまったく違う。本書は稽古場チックで主観的な言い回しで、稽古スタイルも違うだけに、成井豊氏の文は違和感が少々残る。だが感情解放の大切さについてはまったくの同感だ。