池添徳明「実教出版日本史教科書への教委の介入めぐる全経緯」創2013年11月号


創 (つくる) 2013年 11月号 [雑誌]

創 (つくる) 2013年 11月号 [雑誌]


 最近、行政が強引に教育へ介入する事例の記事が目につく。実教出版の高校日本史の教科書採択における介入もそのひとつである。雑誌「創」の池添徳明氏による記事は、月刊誌の利点を生かし、豊富な独自取材で論点を整理し、問題の本質を深く見据えた良記事だと思う。


 事件はこうだ。実教出版の高校日本史A・Bの教科書には、国旗掲揚・国家斉唱について「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」との記述がある。この記述を嫌う行政や右寄り政治家の人がいて、従来高校教員の希望がスンナリ通っていた教科書採択に、「待った」がかかることが多くなった。


 神奈川県では、県教育委員会が各校の校長に再考を強く求め、その結果、全希望校28校がを取り下げた。東京都では、昨年度、他社の教科書を選ぶようにと都教委が何度も電話攻勢をかけた結果、採択はゼロとなった。横浜市教育委員会でも、昨年度、市教委事務局が市立高校からの使用希望を覆したという同様の動きがあった。


 オイラの住む徳島でも、県議会で実教出版の教科書を問題視した立場からの質問が出て、県教委学校政策課の前田幸宣課長は「副教材などを用いながら、生徒が歴史をさまざまな立場から考えられるよう指導していきたい」と答弁した(10月10日付徳島新聞)。直接的な教育への介入があったわけではないが、県議会で質問が出ただけでも、保守的なわが県では、校長や教員の多くは重圧を感じることは確実で、来年度以降の採択希望に微妙な影響が出ることは避けがたいとオイラは思う。


 「創」の記事は、文科省教科書課の担当者の言を紹介している。「高校は種目ごとに専門性が高度で、学校によってレベルや教育方針も違ってくるので、学校の意見を聞いて採択するのが望ましい」。また、実教出版の国旗・国歌の公務員への強制の記述についても、同文科省教科書課の担当者は「職務命令を出して指導すれば従わざるをえない。それを強制と表現したとしても(教科書に内容は)誤りではない」とも述べている。


 要するに、文科省も、学校の意見を聞いて採択するのがいいと言っているのである。しかも実教出版の教科書は、文科省教科書検定を合格している。「専門性もなく、教えたこともなく、読んだこともない教育委員が、各教科何百冊もある教科書のどれが適切なのか選定し、生徒の学力や環境の異なる学校の実情にふさわしい教科書を判断するのは、物理的にも無理だろう(池添氏)」という声に、オイラはまったく同感だ。


 行政や政治家の教育介入が目立つようになった背景には、2006年に第1次安倍政権のもと、教育基本法が改正されたことが大きい。旧教育基本法第10条にあった「不当な支配に服することなく」「国民に直接の責任を負って」の文言は、国家が教育内容に介入して軍国主義教育を行ったことに対する反省から設けられていた。教育に「不当な支配」をする主体は「国家」であり、それに対する「教育権の独立」の法的な裏付けが、ここに高らかに謳われていたのである。


 だがこの条文は、教育基本法の改正とともに骨抜きにされてしまう。「不当な支配に服することなく」の文言は残されたが、「国民に直接の責任を負って」の下りは削除されてしまった。一般行政と同じく、教育も、政治的多数決で選ばれた政治家の原理によって行われるといった論理が幅をきかせやすい文言になってしまったのである。