岩波ブックレット『学校から言論の自由がなくなる−ある都立高校長の「反乱」』



 気骨のある教師がいる。
 東京都立三鷹高等学校の元校長である土肥信雄。彼は現職校長時代に、都教委のいくつかの通達や指導に対し、学校内の言論の自由を奪うものとして異議を唱えた。本ブックレットは、2008年9月27日、武蔵野公会堂でおこなわれた集会「学校に言論の自由を求めて!」の内容をまとめたもの。集会では、土肥氏の講演の他、藤田英典尾木直樹西原博史石坂啓が参加してパネルディスカッションが行われた。



 土肥の挙げる問題点は次の通り。
 1 東京都教育委員会が出した通知「職員会議の挙手・採決の禁止」は、民主主義を教える学校現場になじまず、学校の活力を奪ってしまうものとして土肥は撤回を求めた。
 2 卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱を徹底させるため文書での指示(個別的職務命令)を教員一人ひとりに出すことを求める都教委に対し、土肥は、三鷹高校では、口頭だけの指示(包括的職務命令)で十分であるとしたうえで、本来校長の裁量で決められるはずの職務命令が、校長の裁量で決められない不当性を訴えた。
 3 教職員の業績評価は絶対評価でおこなうとされているのに、都教委から低評価であるC・D評価を20%以上つけろと言われた。教職員の意欲を削ぐ評価はできないと、土肥は20%以下で提出した。
 4 上記の件などで都教委と対立した見せしめとして、退職後の非常勤教員採用試験を不合格にされた。この試験は、合格率97%。教育に対して熱意があり、処分歴もない土肥先生が落とされる合理的理由は何もない。それにもかかわらず、不合格にされた。


 これらの行為によって、土肥に与えた精神的損害、不合格になっていなければ得られたであろう労働の対価を損害として賠償を求めた民事訴訟を、東京都に対して起こした。東京地方裁判所で2012年1月30日に判決が出され、土肥氏の請求はすべて棄却された。土肥氏の完全敗訴だった。


 以上の要約では、わかりにくいと思うので、土肥氏の主張や裁判の経緯などは、「土肥元校長の裁判を支援する会」のHPなどで見ることができるので、こちらをぜひ参考にされたい。http://www.dohi-shien.com/html/



 土肥氏は校長までつとめたから、決して左翼的な考えの持ち主ではない。職員会議で、挙手・採決という手段をとってないし、彼自身卒業式で君が代不起立をしたこともない。非常に熱心で、校長室にこもることなく、高校生のなかに溶けこんで活動をおこなう校長だったと言う。
 君が代不起立の問題は、教師個人個人への思想・信条の侵害という問題として語られることが多い。君が代不起立を貫く教師の問題意識が、保護者や高校生と共有されていない。それが不起立側の弱さだとオイラは思う。しかしながら、土肥氏の場合は、彼の裁判を高校生や教え子や保護者が支援する。これは大きい。


 「昨年6月、土肥が提訴に踏み切ったとき、政治評論家森田実は一文を寄せた。
 《土肥先生を孤立させてはならない。
  真実の教師がいる。「是を是」と言い、「非を非」と言う「直」なる教師がいる。土肥信雄先生のことである。・・・今日の日本に真の教育者がいる、土肥先生のような真に生徒を思い、知識のみでなく倫理(人の道)を教える教師がいることを改めて知り、深く感動した。・・・・東京都教育委員会の土肥先生に対する乱暴な行為は非民主主義的な弾圧であり、理不尽であり、恥ずべき行為であると思う。ただちに非を認めて、謝罪すべきである・・・・土肥先生を孤立させてはならない。 森田実》(澤宮優「生徒がくれた「卒業証書」」192ページ)


生徒がくれた“卒業証書”  ~ 元都立三鷹高校校長 土肥信雄のたたかい

生徒がくれた“卒業証書” ~ 元都立三鷹高校校長 土肥信雄のたたかい