演劇部に行く


 久しぶりに演劇部に行く。稽古は遅々として進んでいない。本来なら、本読みから立ちをしていないといけない時期だが、こんなことを話す。


 「今の君たちが、枠にはまった凡庸な表現しかできないのは、学習してきた常識的な振る舞い方に縛られているからだ。知らず知らずのうちにしつけられてきた常識からいったん自分を解き放つ、演じるためには、これが一番大切なこと。そのためには、子ども時代を考えることが、もっともよい手がかりになるかも知れない。


 赤ん坊は、元来腹式呼吸で、小さな体に似合わず、君たちよりはるかに大きな声を出すことができる。エモーションに忠実で、余計なことを考えない。言葉を持たなくても、君たちよりはるかに豊かな感情を回りに伝えることができる。考えてみるとそれは、演技をするうえで、もっとも理想的な状態かも知れない。段取りを考えない。うまく演じようとしない。力みや気負いがない。


 役者のパフォーマンスが最大限に発揮できるのは、そうした状態にある時である。うまく演じようとすれば、そのことが緊張につながる。心を無欲に保ち、ただ舞台上の相手役のセリフや仕草にメカニカルに反応する。そのことのみに集中し、リラックスして楽しむ。演じるとはそういうことだ。


 心の状態を無に保つレッスンをしよう。何も考えない状態、平静の状態から叫んでごらん。何を叫ぶかは前もって考えない。言葉にならなくてもいい。ただ直前の呼吸の状態を平静に保つこと。リラックスできた状態から音を発すること。うまくいけば、喉にまったく負担をかけずに、体の芯から、自分でもびっくりするくらいの声が出るはずだ。これこそが赤ん坊の状態であり、「感情解放ができた状態」と言うのだ。


 うまくできない? 声が出ない? そんなみんなでも、ライブに行けば声を出してメンバーの名前を叫んだりしているだろう。リラックスし、心と身体をときほぐすには、どうしたらいい?


 遊んでみるのもひとつのやり方だ。これは演劇指導の大先輩である紋田正博先生に教えてもらった遊びだ」そしてメンバーは「太郎くんのダンス」をする。「遊びは身体と緊張をときほぐす。何でもいい。ただ無心になって「楽しむ」ことをすればいい。


 台本には、他愛のない放課後のおしゃべりを楽しむ人たちが描かれている。君たちは、いまこの瞬間を楽しんでいるか。とらわれていては楽しめない。うまく読もうとするな。台本や書き込みにとらわれるな。むしろだらだら読め。いいかげんにやれ。ぼそぼそ喋れ。遊べ。ふざけ倒せ。リラックス。感情解放。そして「身体化」がキーワードだ」