「演劇的」とは何か/その2


 プロの方から触発されたオイラの例をもうひとつあげておく。


 昨年度の四国大会の折、審査員長の内藤裕敬に「プロの演劇と高校演劇、もっとも違う点は何だと思いますか」とオイラは質問した。その時の内藤の答えはこうである。「少なくとも、プロの役者の本番は、稽古通りにはしない」。


 この一言は、オイラの芝居作りを根底から変えるきっかけになった。今までのオイラのアタマの中になかった概念だった。稽古は「すぐれた芝居」という「理想形」に、役者のありようを近づけていくもの。そんなことは当たり前のこと。そのための努力をしているのだから、本番は稽古通りおこなうもの。それを疑問に思う余地すらなかった。


 そんな具合だったから、いろいろなことにオイラは無自覚だった。「すぐれた芝居」の理想形は、顧問であるオイラの頭の中にある。部活は当然のように顧問主導になる。「すぐれた芝居」を「作らせる」ために、オイラは役者を型に入れ、役者はオイラがつけた道筋を正確になぞる、そういうものが稽古だとオイラは思っていた。


 だが、オイラが考える理想形など、自分の狭い認識の範囲の中にしかなくて、たかが知れている。そもそも自分の認識をはるかに超えた投げかけを感じる作品に出会ったときに、衝撃を受けたり、感動したりするのである。衝撃を受けたり、感動したりしたいために芝居を作っているはずなのに、このやり方では、自分の浅い認識を超えられない。人の心を動かす芝居を作れない。これを自己満足というのではないのか。


 そもそも役者は思い通りに動かない。思いどおりに動かない原因を、部員の力量不足にあると言う顧問もいる。だがそうなのだろうか。高校生のせいにする前に、顧問は自らのありようを疑ってみた方がいい。役者がうまく動けないのは、不的確な顧問の指導に縛られているからではないか。型をなぞらせようとするから、動けないのではないのか。高校生を縛っていたのは、実は顧問自身ではないのか。


 個々人を縛っているのは顧問だけではない。高校生を含め、現代を生きる我々は、社会にはりめぐらされた常識や習慣、思い込みや思考の型に縛られている。そもそも演劇はライブである。同じメンバーで同じ作品を上演しても、一回ごとに微妙に違う。「息づかい」がある。「ゆらぎ」がある。「本番は稽古通りやる」ということが、そうした「いま-ここ」の瞬間のリアリティよりも、段取りを優先させ、常に同じようにリアクションすることになっているとしたら、それは演劇の利点を減殺しているとオイラは思う。


 即興の芝居が面白いのは、何が出てくるかわからないスリリングさがあるからだ。即興の芝居とおなじような、創り手の予測を越え、さらに観客の予想を越える、思ってもみなかったような表現が噴出するような芝居こそ、演劇の利点を生かす「演劇的」な営みだとオイラは強く思う。


 前のエントリーでも述べたように、演劇が、言葉にならない「関係」とその変化を描くことに、もっとも効率的な芸術の形式とするなら、「いま−ここ」の瞬間に、役者に生じた「ゆらぎ」を生かした演技の方が、ずっとリアルで多面的で魅力的な演技ができる。狭い鋳型に入れるよりも、役者を縛っている、目に見えない諸々の思い込みから解放してやることの方が、演劇的達成を目指すにはむしろ効率的なのではないか。それが顧問の役割なのだとオイラは考えるようになった。


 答えは役者のなかにある。オイラは俳優を見つめ、信じたい。そう考えて、オイラは今年度、勤務校の高校生と一緒に「またあしたっ」という作品を創ってきたのである。(つづく)



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 追記:「またあしたっ」については、今回は触れません。関連エントリを参考にしてください。またタイトル下の[演劇]タグをクリックすれば、時系列順に読めます。


■[演劇][教育]「またあしたっ」結果報告「モリチャンのこと」 11/25
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121125/1353944075
■[演劇][教育]徳島県立城北高等学校演劇部「またあしたっ」県大会公演 11/23
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121123/1353796762
■[演劇][教育]演劇部に行く「これがラスト」 11/21
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121121
■[演劇][教育]演劇部に行く/上演4日前  11/18
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121118/1353278744
■[フルタの日常][演劇]仏話を聞く。演劇部に行く。 11/12
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121112
■[演劇]第64回徳島県高等学校演劇研究大会 11/7
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121107/1352236767
■[演劇][教育]演劇部に行く 11/5
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121105/1352100122
■[演劇]演劇部に行く 10/29
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121029/1351500473
■[演劇][教育]タカギ カツヤ「またあしたっ」 10/8
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121008/1349673873
■[演劇]第12回とくしま小中高演劇フェスティバル/城北高「またあしたっ」御礼 8/4
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120804/1344377153
■[演劇]勤務校の演劇部に顔を出す 7/28
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120728
■[演劇]演劇部の稽古を見に行く 4/30
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120430