第27回高知高校演劇祭 その15


上演16 高知工業高 今村好希作「修学旅行最後の夜」


 講評文を五月に書き始めたのに、最後までたどり着いたのが七月になってしまった。ちょうどこの七月二十一日に、四国高校演劇祭が開催され、高知県代表として「修学旅行最後の夜」が上演されていた。この作品が多くの人の目に触れて、とてもよかったと思う。昨年の「アルバム」もよかったが、今年の作品も、とても好感が持てた。


 高校の卒業旅行で、修学旅行と同じ宿に泊まった男子4人組が、宿泊室で修学旅行の思い出を回想する作品。自然な演技は相変わらずすばらしい。適度にメリハリが利き力を入れすぎていない。リラックスが非常にうまくできていて、他校も見習うべきだと思う。何よりも楽しみながら作っていることが見てとれるのがいい。おそらくアドリブなども生かしながら作られているのだろう。良好な人間関係のなかで、楽しい稽古が行われていることが見てとれて、それらが芝居にいい意味で乗っていた。演劇が「いま−ここ」の瞬間のリアリティを映し出す芸術であることを、この演劇部の人たちは、本能的につかんでいると思う。


 セリフもうまく書かれているし、いい意味でくだらないことが延々と続くのも、演劇を立ち上げるうえにおいては適切な戦略だと思う。また、セリフに地方語を選択せず、かつ修学旅行先がどこなのか描かないのも、結果的によかったと思う。特定の場所を明示しないことで、多くの人の感情移入を容易にする。修学旅行という、誰にもおなじみの題材を扱っていることが、うまく生かされていると思う。


 内容に関しては、修学旅行の思い出の地を仲間と一緒にもう一度旅をする、という発想がいい。思いつきそうで、あまり劇化されていない状況だと思う。ただ構成はもう一工夫必要か。修学旅行と卒業旅行が二重構造になっているのだから、それを生かした展開にするべきだったと思う。たとえば、修学旅行のときは秘密にしていたことが、卒業旅行で明かされて波紋を呼ぶ、等というふうに。同じ状況での展開や考え方の違いを対照的に表現することを考えれば、大人になる「意味」や「時間」を射程に入れた、奥行きのあるドラマを構築できたかも知れない。


 全体のことについて少し。三年続けて、高知県の春の演劇祭を見させていただいた。演技的には、平均レベルの向上は明らかだと思う。三年前は、「大きな」と言うときに、大きく手を回してみせるような、「フリ」をする説明的な演技がたくさん見られた。さすがにそうした演技はほとんど見られなくなった。


 出場校の増加にともなって、上演時間に制限が設けられたために、全国大会で演じられたような、高校演劇の有名な台本が上演できず、代わりにネット脚本が多く用いられたことも、今年度の特徴だった。ネットの脚本は、上演の試練にさらされていない作品も多く、玉石混淆である。そのことが、作品全体の平均レベルに影響を与えたのではないか。全体のレベルに関しては、昨年の方が高かったように思う。


 また、暗転を失敗している学校が多かった。回数が多かったり、時間が長くかかりすぎている。明らかに経験不足である。基本的なことはクリアしたうえで、より高度な表現にチャレンジしてほしい。先輩の知識の集積を、後輩に継承していることが肝要。顧問のかかわり方も含めて、考えてみるといいのではないかと思う。


 第27回高知県高等学校演劇祭 講評


上演1 高知小津高 ナイトメア・プロジェクト作「歪みの国のアリス
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130503/1367855902
上演2 高知追手前高 宮沢賢治作「銀河鉄道の夜
上演3 高知高 双葉作「トモナリ」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130504/1368012584
上演4 土佐高等学校・ひまわり作「かえるハイツ」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130506/1368339503
上演5 山田高 中田彩希作「鎖絡む少女」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130507/1368373261
上演6 高知学芸高 田中教如作「楽しい歓迎会」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130508/1368523997
上演7 土佐女子高 市原菜乃・土佐女子中高演劇部作「フィナーレ」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130509/1368752884
上演8 高知東高 石原哲也作「クロスロード」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130510/1368917761
上演9 土佐塾中高 加藤のりや作「鎖をひきちぎれ」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130511/1369085049
上演10 岡豊高 西内ひかり原案・篠智美作「リンク・リンク・リング」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130513/1369548239
上演11 高知丸の内高 楽静作「明日二人だけのロミ&ジュリを」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130514/1369758586
上演12 高知南高 川久保綾作「贅沢な骨」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130619/1371930366
上演13 宿毛高 長谷川琥珀作「令嬢メイド・御堂河内アンナ」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130620/1372176363
上演14 高岡高 加藤のりや作・高岡高校演劇部潤色「王女様のいるところ」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130706/1373785384
上演15 春野高 阿藤智恵作「しあわせな男」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130713/1374295591