第59回全国高等学校演劇大会(長崎大会)


 8月2日から4日にかけての3日間、長崎県長崎市で行われた第59回全国高等学校演劇大会に参加した。同行したのは、勤務校の演劇部生徒5名、副顧問のM先生、それとオイラの総勢7名。以下は、印象に残った作品の感想のいくつかである。


鶴見商高(大阪)「ROCK U!」


 ここの学校をはじめ、今大会では、自分たちの伝えるべき確固としたコンテンツを備えた学校が光っていた。最優秀になった大阪の鶴見商業「ROCK U!」は、文化祭を前にした、「しんどい子どもたち」が通う学校の、やる気のない教室風景からはじまる。在日朝鮮人である主人公が、文化祭でロックを演奏しようとする過程で、クラスメートと正直な気持ちをぶつけあい、対立や葛藤を繰り返しながら「和解」し、自己承認してくれる「仲間」をその場に見つけだしていく。叩きつけるような荒々しい「気持ち優先」のセリフが、観客席の隅々まで届いていた、とは正直言い難かった(これは劇場のせいでもある)が、コンテンツが創り手自身の問題そのものであり、熱情あふるる役者の「気持ち」に、強烈なリアリティと迫力を感じることができた。人の心を動かすのは、ロゴス(論理)ではなくパトス(熱情)である。また、在日問題や差別という、より大きな問題に立ち向かおうという作り手の前向きで強い意思や、自由を希求する切実でストレートなエネルギーにも好感が持てた。今大会、オイラが唯一グッと来て泣けたのは、この作品だった。


八重山高(沖縄)「0(ラブ) 〜ここがわったーぬ愛島〜 」


 優秀になった沖縄の八重山高「0(ラブ)〜ここがわったーぬ愛島(アイランド)」もまた、文化祭前の出し物を決める教室の様子を描いていた。故郷八重山諸島への愛を、愚直なまでにまっすぐで素朴なスタイルで描き、観客をうまく乗せ、好反応を引き出した。教室の人びとをマンガチックに誇張して描くというスタイルは「ROCK U」や「マスク」と同じだが、これらの作品がスクールカースト間のコミュニケーションギャップを深刻に描いているのに対し、八重山高の作品は「ギャル」や「真面目」などの間のハードルが比較的低く、対立や反発も含めたコミュニケーションが成立していた。その牧歌的でおおらかな教室風景から、八重山高の人びとの素の姿が透けて見える、そうした作りが好印象に思えた。ただ劇中「七人の部長」に似た(影響を受けた?)表現が何ケ所かあった。ヌケヌケと演じているのはこの学校の魅力だが、そこまでヌケヌケやるのは、いくらなんでも反則なんじゃないかとは思った。


北見北斗高(北海道) 「ちょっと小噺。(ちょこばな。)」


 同じく優秀の北海道の北見北斗高「ちょっと小噺。(ちょこばな。)」は、高校の落語同好会を舞台に、バレンタイン寄席にからむ高校生の色恋の誤解と和解を描いた作品だった。落語に関するドラマが、まるで落語のようなスタイルで進行する巧妙さには舌を巻いた。加えてチャーミングな天然ぶりを発揮する女教師など、マンガチックに誇張されてはいるが、類型に堕することのないドンピシャの一人ひとりの造型ぶりにうならされた。生徒と一緒に学校でヘタクソな落語に取り組んでいるオイラからすれば、劇中で演じられる落語は、なかなかに達者な熱演だと思う。また、いつも感心させられるのは、衣装の色彩感覚で、原色をポイントに使い華やかな雰囲気をうまく盛り上げていた(つづく)。