河村たかし「復興増税の罠」と吉田繁治「国家破産」


復興増税の罠 (小学館101新書)

復興増税の罠 (小学館101新書)


 オイラは増税反対である。一言で言えば、政府を信用できない。今の政府が国民の最大多数の利益を第一に考えて運営されているという感じがしない。財政問題については、わかりにくいことが多い。政府の考えをきちんと説明して、多くの疑問に答えてほしい。そして責任の所在を明らかにしてほしい。消費税アップは、家計から政府・企業への所得移転。少なくともオイラは、問題の本質がうやむやになっているのに、「増税やむなし」と言うほどのお人よしではない。


 河村たかし減税日本)については個人的に応援している。「減税」と「公務員制度改革」をセットにしている政治勢力は、左翼政党以外は、ここしかない。2/20の南京事件についての発言は勇み足だった。だが、河村が「礼儀を欠いた」「市民に迷惑がかかるのは心が痛む」と思ったのなら、修正すればよい。既成勢力におもねることなく「減税」と「公務員制度改革」を実現するべく政治活動を続けてほしいと思う。


 本書では、河村たかしの、財政問題に関する持論が展開されている。ただし、彼の主張は、ここにきてもまだ上げ潮派のそれだ。河村は言う。銀行に金が余っている。その余った金で銀行は国債を買っている。日本国債は安全資産だから買う。日本国は潰れない。日本はギリシャとは違う。日本国債金利を見れば分かる。日本国債金利は1%、ギリシャは20%超。日本が財政破綻になるのなら、こんな低金利のはずがない。日本にはデフォルトの危険などないのだと。


 国家破産は「必ずある」


 一方、吉田繁治である。彼は、こうした説は誤りだと言う。国債先物市場の取引は現物よりも多い。世界には、デリバティブによりふくらんだ約4京8000兆円のマネーがぐるぐると回っている。ヘッジファンドが動かしているマネーは膨大である。そのヘッジファンドが、次の戦略ターゲットを、先進国の国債リスクにねらいをつけている。これに対し、各国政府や中央銀行による市場介入は、実はバケツの一滴でしかない。長期間にわたり、市場を操作できる力はない。


 国債の価格と金利は市場が決める。2008年のサブプライム・ローン危機以降、金融市場における最大の変化は、国債がデフォルトもありえるリスク資産だと認識されはじめていることだ。現に債券の回収を保証する保険であるCDSは上昇基調である。CDSがなければ、国債は売れないだろうと言われている。


 国債が売れるのは、低金利の時代、安定した利益が確実に得られる金融商品国債くらいしかないからだ。これまで国債投資で損をした人はほとんどいない。だから金融機関は買い続ける。国債はバブルである。だがCDSは上昇している。
 数%の金利上昇が、財政危機から国家破産の端緒となる。金利が上がると借換債の発行が思うようにいかない。予想以上に短い期間でデフォルトに陥る。日本では3%、米欧では借換債の金利が5%が目安。今後2−3年の間に、基軸通貨の価値下落が見えるようになると予言する。


 吉田繁治はその著書「国家破産」の中で、今後数年間の間に、国債が暴落して、金融恐慌から経済恐慌にいたる先進国(日本)のプロセスを、リアルに活写する。専門家としての説得力は、吉田繁治の方が何枚も上だ。
 政府が今増税を言うのは、こうした状況に対する危機感があるからだろう。政府が、増税をして財政健全化を図っていると、たえず発信していないと、国債市場で買い手が減る状況になるからだ。ユーロ危機によるPIIGS債の暴落を見て、日本政府も「時間がない」と思っているのだろう。消費税UPによる景気後退を頭においたとしても、日本国債の暴落よりはましだと考えているのだろう。


 だからといって、我々が消費税UPを「仕方がない」と受け入れることとは話が別だ。国家財政が破綻しても、企業や世帯が破産するわけではない。国家と企業、世帯は別である(このことも「国家破産」の中では指摘されている)。現在の政府にあるのは、財務省の論理だけで、国民に納得できるように、本質的に政策の必要性を理解してもらおうという努力に欠けるように思えてならない。国民が主権者であり、国民から政治を委託されているという意識が薄い人たちの意見には賛意は示せない。


 河村たかしと吉田繁治の、どちらが説得力があるかと考えれば、もちろん吉田繁治の方だ。それでもオイラは、政治家としては、河村たかしを支持したい。おかしいところは修正していけばいい。もし「減税」が非現実的な選択肢であったとしても、政治的な争点としてテーブルの上に乗っている限り、財政運営上の問題点が必ずあぶりだされてくると思うからである。


国家破産・これから世界で起きること、ただちに日本がすべきこと

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