前泊博盛「本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」」創元社 その2


本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」 (戦後再発見」双書2)

本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」 (戦後再発見」双書2)


関連エントリ
[本/文学]前泊博盛「本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」」創元社 その1http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130420/1366557523


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


(つづき)
9 米軍が希望すれば日本全国どこでも基地にできるというのは本当か。


 できる。だが予算の少なくなった米軍は、新たな米軍基地を作るよりも、日米地位協定の条文を拡大解釈すことで、基地の経費を日本側に負担させながら、演習は以前通りに実施できる状態を目指している。全自衛隊基地の共同使用を実現することが米国の目標と指摘する人もいる。「本土の沖縄化」が危惧される。


10 現在の「日米地位協定」と、旧安保時代の「日米行政協定」は、どこが違うのか。


 本質的に何も変わっていない。日米地位協定が結ばれる約2週間前に日本の藤山外務大臣マッカーサー駐日大使の間でかわされた密約では、「米軍基地内でのアメリカの権利は、(日米行政協定のもとでの権利と)変わることなくつづく」と合意されている。


11 同じ敗戦国のドイツやイタリア、準戦時国家である韓国などではどうなっているのか。


 地位協定は、米軍が駐留している国ではどこでも結ばれている。だが、イタリアでは、米軍基地はイタリア軍の司令官のもとにおかれている。韓国では日本にはない環境条項が創設された。ニュージーランド核兵器搭載のアメリカ艦船の寄港を禁止した。どの国と比べても、日本の日米地位協定は、明らかに不平等である。


12 米軍はなぜイラクから戦後8年で完全撤退したのか。


 アメリカが出したと思われる「イラクアメリ地位協定」案に、イラクは110箇所の修正を求めた。1.協定に米軍撤退/2.今後の米軍駐留が可能と読めるようなあいまいな表現を削除/3.米兵の免責特権についてイラク側の権限を強化/4.米軍のイラク国内からの周辺国への越境攻撃の禁止条項の追加/5.アメリカの艦船の捜査権をイラクに付与。
 撤退直前になるとアメリカ側から激しい圧力が加えられたが、イラクの交渉担当者はふんばった。


13 フィリピンが憲法改正で米軍を撤退させたというのは本当か。なぜASEANは米軍基地がなくても大丈夫なのか。


 フィリピン→本当である。1986年のアキノ政変後の87年に新憲法を公布し、1991年に乗員が基地存続条約の批准を拒否、様々な恫喝に負けずに、1992年までに米軍基地を完全撤退させた。
 ASEANASEANには米軍基地はない。タイやシンガポールのように、米軍と合同演習を定期的に行う国はあるが、米軍基地がなくても、地域の安全保障の仕組みは機能している。南沙諸島への中国進出も、日本では過大に喧伝されている。


14 なぜ日米地位協定が、原発事故や再稼働問題、検察の調書ねつ造問題と関係があるのか。


 日本は法治国家ではない。砂川裁判など、米軍基地の問題をめぐって、アメリカが日本の検察や最高裁を直接指示するという違法な権力行使が日常化した。それだけでなく「アメリカの意向」をバックにした日本の官僚が、国内法のコントロールを受けない存在になっている。それが、原発事故や再稼働問題、検察の調書ねつ造問題と本質的につながっている。


15 日米合同委員会とは何か。


 もともと日米合同委員会は、国民の目にふれさせられない問題を、密室の中で決めるための機関である。TPPについては、「アメリカとの条約が国内の法体系よりも上位にある」と言う安全保障の構造を、経済関係全体に拡大しようという試みと言える。


16 米軍基地問題原発問題にはどんな共通点があるのか。


 1.根拠の乏しい「安全神話」の流布。地域経済の「基地依存経済化」
 2.恩恵を受ける人間と負担をする人間が別である「受益と被害の分離」が格差や差別を生む。
 3.管理・運営・危機管理の「他人任せ」「政府の無責任」「担当者の当事者意識の欠落」
 4.抜本的解決・対処策を担うべき政策担当者や専門家らの「思考停止」
 5.事故や事件を防ぎチェックする側と施設を運営する側の「なれ合い」「官僚の背信行為」
 6.重要情報が開示されない「隠ぺい体質」
 7.「国民の無知と無関心」


17 なぜ地位協定の問題は解決できないのか。


 米国人のほとんどが、沖縄に巨大な米軍基地があることも、度重なる米軍の事件・事故、演習被害が起きていることも知らない。まず米国民の世論形成が必要である。