前泊博盛「本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」」創元社 その1


本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」 (戦後再発見」双書2)

本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」 (戦後再発見」双書2)


 日米関係を考えるうえで、今最も重要な本。日米地位協定についての知識がなくても、パート1のQ&Aで基本的な知識を得ることができ、パート2では、外務省機密文書「日米地位協定の考え方」についての分析が掲載されている。読みごたえ十分。例によって以下は内容要約である。


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1 日米地位協定とは何か。


  アメリカが占領期と同じように、日本に軍隊を配備し続けるための取り決めである。1952年、日本はサンフランシスコ講和条約の発効によって、表面的には独立が回復するが、旧安保条約と日米行政協定によって、実質的に軍事占領状態が継続した。沖縄国際大学の米軍ヘリ墜落事件でも明らかなように、沖縄の米軍と米軍基地は、日本国内にありながら一種の治外法権が与えられている。そもそも日本政府は、自国の国内にどんなアメリカ人が何人いるのかすら、まったくわかっていない。


2 いつ、どのようにして結ばれたのか。


  戦後体制(サンフランシスコ体制)は、講和条約−安保条約−行政協定の三重構造のなかにあり、もっとも重要なのは「行政協定」である。サンフランシスコ講和条約が寛大だったのは、日本から確実に基地の権利を獲得し、思いどおりに運用するためでもあった。旧安保条約は、調印の直前まで、内容も調印する日時もだれも知らない事実上の密約だった。吉田茂は、安保条約を国会でまともに審議せず調印した。


3 具体的に何が問題か。


  地位協定の問題点を大きく分類すると、次の5つになる。
  1 米軍は罪を犯しても起訴されない。とくに米兵の公務執行妨害や文書偽造、脅迫、詐欺、恐喝、横領、盗品などの起訴率は0%である。米兵が優位に扱われる「法のもとの不平等」が存在する。  2 いくら有害物質を垂れ流しても罰せられない協定の不備などの「法の空白」がある。
  3 たとえば、米兵がレイプ事件や殺人事件を起こしても、米軍の好意的配慮によって容疑者を引き渡すか渡さないかは「恣意的運用」に任されている。
  4 協定で定められていることも守られない「免法特権」のケースが無数にある。
  5 米軍には日本の法律が適用されない「治外法権」がある。また首都圏をはじめ、日本のいたるところに、米軍が管理する巨大な空域があって、日本の民間機は不自然なルートを飛ばなければならなくなっている。


4 なぜ米軍ヘリの墜落現場を米兵が封鎖できるのか。


 米軍の「財産」については、日本政府は何も手出しができない取り決めになっている。米軍は何も制約されない。サンフランシスコ講和条約には日本語の正文がなく、講和条約に入れられないほどひどい条文は安保条約に入れられ、さらに売国的な条文は日米行政協定に入れられた。本来絶対あってはならない植民地的状況を、独立国の法体系の中に位置づけるふりをしようとしてきたために、複雑な形に見えるのである。


5 東京大学オスプレイが墜落したら、どうなるのか。


 米兵は、正門や赤門を封鎖して、警視総監の立ち入りを拒否することができる。沖縄国際大学ヘリ墜落事故以後にできた米軍機事故に対するガイドラインは、墜落事故の時の無法状態を、正式に文書化して認めてしまうものだった。


6 オスプレイはどこを飛ぶのか。なぜ日本政府は危険な軍用機の飛行を拒否できないのか。なぜ住宅地で危険な低空飛行訓練ができるのか。


 日本全国どこででも飛ぶ。米軍機には日本の国内法もアメリカの国内法も適用されない。米軍機は航空法によって適用除外を受けている。東村高江では、日本人を標的にした軍事演習が行われている可能性が高いと言われている。


7 騒音で人権侵害が起きているのに、なぜ裁判所は飛行中止の判決を出さないのか。


 裁判所は、騒音による人権侵害を認めているのに、「米軍機の飛行差し止めについては、司法による救済はできない」と言う(第3者行為論)。裁判所は米軍の前にひれ伏している。


8 なぜ米兵が犯罪を犯しても罰せられないのか。


 日米地位協定によって、米兵が公務中の場合、どんな罪を犯しても日本側が裁くことができない取り決めになっている。公務中でなくても、日本の警察に逮捕される前に基地に逃げ込んでしまえば、逮捕することは難しい。また、基地に逃げ込む前に逮捕できても、ほとんどの事件において日本側は裁判権を放棄するという密約が日米間で交わされている。日米合同委員会での協議で決められた方針は、法務省経由で検察庁に伝えられ、検察庁は米兵に対しては軽めの求刑をすると同時に、最高裁に対しても軽めの判決を出すよう働きかけている。最高裁事務総局は、裁判官たちを集め、自分たちが出したい判決の方向へ会議を通じて裁判官たちを誘導している。(つづく)


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