週刊東洋経済2012年11月17日号「特集/人ごとではない。明日は我が身の 解雇・失業」


週刊 東洋経済 2012年 11/17号 [雑誌]

週刊 東洋経済 2012年 11/17号 [雑誌]


 能力不足を理由にした普通解雇、そして中小企業などの理不尽な解雇が横行していることに驚く。「身内の不幸で有休を取得したら解雇を通告された」「データ改ざん指示を拒否したら解雇された」「店長から「俺的にダメだ」という理由で解雇された」等など、そういうことはあるだろうなとは思っていたが、本特集を読むことで、乱暴な解雇が多くの職場で横行している現実を再認識した。40歳定年制、その後(賃金を抑制されて)75歳まで働くことを前提に制度設計を提案している学者の意見なども掲載されていて、将来の厳しさを実感させられた。管理職の意向とは関係ないことばかりやっているオイラもまた、明日にでも能力不足とか言われそうだ。住みにくい世の中になったものだとつくづく思う。


 一方、記事「ミクロの感覚頼みでは景気はよくならない」、関連して、大阪大学フェローの小野吉康氏の「政府だけが「合成の誤謬」に対応できる」と題したインタビュウ記事がわかりやすく、考えさせられた。企業は生き残りをかけて雇用の見直しを含めた経営努力で業績を改善した。だが賃金を抑制してきたので、消費は増加しない。消費が減少していくために価格を下げなければならない。それが企業利益を減少させる。それがデフレ不況である。賃金を抑制しリストラを進めれば進めるほど、デフレ不況は進む。


 そうした状況(合成の誤謬)を対応できるのは政府しかない、と小野氏は言う。なぜ増税が必要なのか。需要不足を解消するためには政府支出が重要であり、その元手としての増税が必要なのだ、と言うわけである。「消費」増税の是非はともかくとして、氏の言葉は、政治経済を選択した高校生のレベルで十分わかる。きちんと筋道立てて理解することで、本質的な事柄が明確になるよい例である。本特集では、雇用状況の厳しさというミクロ的な視点だけでなく、マクロ的な視点から金融・財政を考える重要性をあらためて認識した。


 以下、小野吉康氏のインタビュウ記事からの引用(49ページ)。


 金融政策の必要性を説く人は「おカネをたくさん発行すれば物価は上がる」と言っているが、そうでないことをわれわれはこの20年間見ている。1990年代、日本銀行の発行したおカネ(ハイパワードマネー)は40兆円くらいだったが、今は120兆円以上。ごく最近だけを比べて、日本は海外より緩和が遅れていると言う人がいるが、それなら以前にこれだけの緩和をし、さらに当時は海外の景気もよかったのに、なぜ日本では景気もデフレも改善しなかったのか。


 インフレ社会ではおカネは早く使ったほうがいい。しかしデフレ社会では、おカネは持っていた方が有利だ。それで需要不足はさらに拡大・固定化される。残念なことに、ここの企業や家計がデフレに対応する行動は、デフレを悪化させる「合成の誤謬」になる。企業は生き残るために賃金や人員を切、家計は賃金が減る中でますますおカネに執着し、物を買わず物価を押し下げる。


 このようなときに需要を創るのは政府しかいない。そのためには資金がいる。企業や家計は「増税なんてとんでもない」と反対するが、しかし政府は税金を取って金庫にしまっておくわけではない。それを使う先は日本人であり、所得を再分配しているにすぎない。「政府は不公平に再分配をしている」と文句を言うならまだしも、「政府がおカネを取るから景気が悪くなる」という論理はおかしいのだ。しかし政治は票を取るためにそうした声に従い、資金不足でますます支出を切りつめ、需要不足を増幅している(引用おわり)。