「僕達急行−A列車で行こう」


僕達急行 A列車で行こう [DVD]

僕達急行 A列車で行こう [DVD]


 しばらく高知の演劇祭の感想を書いていたので、それ以外の更新が滞ってしまった。遅ればせながら森田芳光の遺作となった「僕達急行−A列車で行こう」である。「森田芳光」の印がいたるところに押してある油ののりきった快作で、この映画が遺作になると言われてもオイラはピンとこないのだった。61歳での逝去は、映画監督としては早い。枯れた味の作品も見たかったとつくづく思う。


森田芳光監督作品


ライブイン・茅ヶ崎(1978年)
の・ようなもの(1981年)
シブがき隊 ボーイズ&ガールズ(1982年)
本(マルホン)噂のストリッパー(1982年)
ピンクカット 太く愛して長く愛して(1983年)
家族ゲーム(1983年)
メイン・テーマ(1984年)
ときめきに死す1984年)
それから(1985年)
そろばんずく(1986年)
悲しい色やねん(1988年)
キッチン(1989年)
愛と平成の色男(1989年)
おいしい結婚(1991年)
未来の想い出 Last Christmas(1992年)
(ハル)(1996年)
失楽園(1997年)
39 刑法第三十九条(1999年)
黒い家(1999年)
模倣犯(2002年)
阿修羅のごとく(2003年)
海猫(2004年)
間宮兄弟(2006年)
サウスバウンド(2007年)
椿三十郎(2007年)
わたし出すわ(2009年)
武士の家計簿(2010年)
僕達急行 A列車で行こう(2012年)


 多作家の印象があったが、ピンク映画を入れても、監督作は28本しかないのだ。


 今手元に本作の脚本が掲載された、「月刊シナリオ2012年4月号」がある。本脚本は森田芳光のオリジナル。だが、脚本を読んでも「僕達急行−A列車で行こう」の面白さは、ほとんど伝わってこない。要は演出の面白さなのだ。


 森田芳光の作品は、ディテールに凝る。印象に残る1カット1カット、ちょっとした役者のさりげない動き、そして、すっぼけたユーモアや力の抜けた「間」が、観客の心をとらえる。印象的なカメラや美術をはじめ、ひとつひとつのカットの提示のサマが極めて映画的で、説明くさくない。本作でも、笹野高史の腕の振り方、とか、多用される効果音であるとか、原色を多用した色彩感覚であるとか、筑後社長の家のプレイルームでの、いたずらっぽいカメラワークであるとか、まさに「神は細部に宿る」(byミース・ファン・デル・ローエ)なのだ。


 今回、鉄道が主題である。森田が細かいところにこだわりながら、楽しみながら撮っているのは一目瞭然。そんなリズムに乗せられ、ラストに近づくと、遊びの度合いはドンドン大きくなり、ジョギング中に突然コーヒーカップとポットが出現したり、Mr.サンダーバード.Jr氏が、サンダーバードのマリオネットの人形のように登場したりする。いつの間にか森田の手のひらの上で遊ばされ乗せラレ、予定調和の仕事面のハッピーエンドも、ま、いいかと思わされる、至福の1時間57分だった。傑作です。