婚前特急


婚前特急【通常版】 [DVD]

婚前特急【通常版】 [DVD]


 (結末に触れています)
 映画らしくない日本映画が多い。映画らしくなくて何に似ているのかと言えば、もちろんテレビなのである。映画なのに、セリフが説明調で、アップを多用する。町村智浩曰く「テレビの副音声のような」「これをしないとわかんないだろという」「観客を侮蔑した」ドラマ作りが映画界でも幅を利かせていて、そのことにオイラや心ある映画ファンは辟易し、心底うんざりしているのであった。


 しかしながら、「婚前特急」は、昭和の映画かと見まごうほど、とても映画らしい映画であった。ストーリーは他愛もないコメディ(非常によくできている。為念)。ところが表現は映画としての節度があり、不必要なアップもなく、長回しも多く、会話によるその場の状況の変化をきちんと見せていこうという作り手の意志が感じられた。役者もボソボソ喋り、設定も細かく、軽薄な役柄の登場人物にも陰影がつけられ、一面的に軽薄な登場人物に見えないように作ってある。撮影に関しても、影をきちんと影として撮ろうというポリシーが感じられた。むしろ昭和調の、映画らしい映画をきちんと作ることを狙っているのかも知れない。


 台本もよく練られている。5人の男とつきあっている24歳のOL(吉高由里子)。自由な恋愛を謳歌しているが、友人の結婚に影響されて、性格も悪く経済力もないがさつで無神経な「最低」男(浜野謙太)を、とりあえず「整理」しようとする。ところが「俺たちつきあってないじゃん」と、思ってもないことを言われる。女は男を手玉に取って自由恋愛を謳歌しているつもりだったのに、相手の「最低男」は彼女を性欲処理に利用していただけだった。たちまち男女の立場が逆転する。このままでは「最低女」になってしまう、焦った女は男に復讐を企む・・・・。恋愛コメディ定番のストーリー展開を生かしつつ、才気あふれるコミカルな展開は、スクリューボールコメディの教科書のようだ。


 結局「いじわるな女」と「最低男」は、壮大でコミカルな痴話喧嘩(壁をブチ抜く大ゲンカをしたりする)を繰り広げながら、ラストでは結婚式の場面に至る。「おめでとう」という参列者に対し「ありがとう」と満面の笑みを浮かべる吉高由里子のお腹はすでに大きくなっており、「できちゃった婚」であることが推察される。またラストでふたりが乗って旅立つ列車は、ローカル線のオンボロ列車。とても「婚前特急」と言えない。そうした描写に作り手のシニカルなまなざしが感じられ、これが作品に客観的な「大人の視点」を与えていると言える。