ゴーストライター
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この映画をまだ観ていないなら、以下の文章など読まずにさっさと観ればいい。傑作。2011年キネマ旬報ベストテン外国映画1位は伊達ではない。ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、トム・ウィルキンソン、キム・キャトラル、オリヴィア・ウィリアムズ。監督ロマン・ポランスキー。原作は同題のロバート・ハリスの小説(講談社文庫)。(以下、結末に触れています)
イギリス前首相の自伝のゴーストライターを頼まれた男。前任者は不可解な溺死をとげている。前任者の死の真相と前首相の過去を探るうちに、国家間の謀略に巻き込まれていく・・・・・。こう書くと、手垢のついた政治サスペンスの一本のように思えるが、諜報機関の裏工作の実態と、国際情勢を巧みに反映して、現代においては十分アクチュアリティを持ち得る「ある大胆な設定」がとても印象的な一本である。
大胆な設定とは
この映画は、CIAによる同盟国の指導者に対する裏工作を描いている。CIAの工作員である妻や大学の友人が、40年間、ひとりの政治家を支え便宜をはかり、ついには夫を首相にして、アメリカの政策に追随させる政策を実行させるのである。一生をかけたハニー・トラップ。日本では考えられないような途方もない話だが、アメリカでは有力政治家の誰それの妻が実はCIAで、といった噂を時折聞く。
しかも映画の前首相は、トニー・ブレア前首相を容易に連想できるように描かれている。「ブッシュのプードル」と呼ばれ、イラク戦争に前のめりに参加したブレアは、妻のせいでCIAの協力者にされていたと言わんばかりの大胆な内容である。ライス元国務長官によく似た人物が元首相と一緒にテレビに映ったりするこの映画を見終わって、荒唐無稽さよりも、さもありなんと設定を抵抗感なく受け入れている自分に気付いた。
それは、この映画の根底にある、アメリカに対する不信が、妙にリアルな気分として我々の周りを取り巻いているからだ。アメリカからの裏工作や圧力にさらされやすい敗戦国日本。そのことで国益が損なわれていることに憤りを感じているからこそ、この映画の中で描かれているCIAの「狡猾さ」を再認識したのだとオイラは思う。
監督のロマン・ポランスキーは1977年、13歳の少女淫行容疑で懲役50年に相当する判決を受け、保釈中にアメリカを出国し、ヨーロッパへ逃亡した。以来一度もアメリカの地を踏んでいない。アメリカに対する不信を持つポランスキーだからこそ、この映画を作り得たのだ。アメリカ不信の「気分」は、今や世界中に広がっていることも確かであり、それが作品の生々しいリアリティとなっている。
ラスト、前任者の残したダイイングメッセージを読み解き、妻こそがCIA局員であることを知るシーンは、ポランスキーの「吸血鬼」のラストを彷彿とした。
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
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