第58回全国高等学校演劇大会・岐阜農林高「掌(たなごころ)〜あした卒業式〜」感想


 全国大会で上演された岐阜農林高の「掌(たなごころ)〜あした卒業式〜」は、農業高校を舞台に、バラバラになりかけたクラスが、はみ出し生徒との友情を確認することで、絆を築いていくドラマである。クラスが結束するきっかけになったはみ出し生徒が、家庭の事情で転校せざるをえなくなり、クラスメイトは、別れ際に卒業式に桜を見に来てと約束をする。ところが、転校したはみ出し生徒は、東日本大震災に巻きこまれ、生死が分からない。クラスメイトは、卒業式前日に体育館に忍びこみ、生死不明の友人がやってくるのを待つ。


 ぶどうやきゅうりの栽培や収穫に関するデティールは、農業高校でなければ描けない内容で、どちらかと言えば類型に流れがちなドラマを引き締めている。台本の構成も巧みで、精霊の使い方もうまい。ただ役者は正面を向いてセリフを言う場面が多い熱演で、役者同士の関係を見せるよりは、ドラマを図式的に観客に伝えるといった役割が強いように感じられた。


 また、はみ出し生徒が転校していく先は、東北の被災地である必然性は感じられず、東日本大震災を無理やりにドラマに組み込もうとしているように見えてしまう。高校生活を描いて、ラストが卒業式という状況設定も、無数の先行作品がある。ラストの感動にドラマを収束させる内容が、いわゆる「よくある話」であり、オイラは、あざとさを先に感じてしまった。


 ラスト、卒業式なので背景につるされた日の丸に、照明を当て桜吹雪を降らせた。日の丸と桜吹雪は、政治的イデオロギーを連想させるシンボル。ましてや国民的朝ドラの主題歌であった親しみやすいメロディの「春よ、来い」がBGMとなると、身構えてしまう人もいるのではないか。もちろん作り手に政治的意図などはないのだろうが、シンボルの取り扱いに無自覚だと、いらぬ感興を一部の観客に呼び起こす。このことは、あえて指摘しないのが大人の対応だと思ったのだが、誰も指摘しないので、やはり書いておくことにする。


 8・20追記
 全国大会の様子は「青春舞台2012」として、2012年9月29日(土)15時から17時、Eテレにて放映される。