岸和田少年愚連隊


岸和田少年愚連隊 [DVD]

岸和田少年愚連隊 [DVD]


 1996年製作。原作は同題の中場利一の自伝的小説。1975年頃の大阪・岸和田を舞台に、喧嘩にあけくれる不良少年たちの姿を描く。監督は「ガキ帝国」と同じく井筒和幸。出演はナインティナイン岡村隆史矢部浩之)、大河内奈々子秋野暢子。結末に触れています。


 同じ井筒和幸の「ガキ帝国」(1981)と比較すると、こちらは分が悪い。吉本興業の漫才師を使い、大阪を舞台にした不良少年たちの物語と、映画の基本構造は一緒。だが「ガキ帝国」の紳助・竜介趙方豪をはじめ、映画の隅々まで何をしでかすか分からないアクの強い尖った個性が感じられるのに対して、こちらは、ナイナイの人の良さや優しさが透けて見え、少しマイルドな感じがする。製作年や描かれた時代が新しいということも、作品が洗練されていることと関係していると思うが、その分こちらは「普通の映画」、縮小再生産のようにオイラには見えてしまった。


 もちろん「岸和田」だけを見たら、物足りなさを感じることもなかっただろう。井筒は、喧嘩が日常の下町の、関西圏のある種の人々をリアリティを伴って描き出すことが抜群にうまい。エスカレートする喧嘩を描くだけでなく、その中に人生の行き詰まり感すら感じさせ、登場人物たちの陰影を丁寧に画面に刻みつけているのは見事だと思う。


 裁判所の帰り、バスの中で視線をあわせず、揺れながらどこか同一方向の遠くをぼんやり見つめるリョーコとチュンバ。映画はこの場面で始まりこの場面で終わる。この場面は、映画の中でオカンとチュンバの組み合わせで何度も反復される。しかしラストでは、オカンも裁判所には付き添いにはこない。オカン(秋野暢子)はオトン(石倉三郎)やおじい(笑福亭松之助)に愛想をつかして家を出たのである。このオカンの行動を、恋人であるリョーコ(大河内奈々子)とチュンバ(矢部)に重ねあわせてみせるのが秀逸。


 そして恋人のリョーコもバスを降りる。あほんだらの男たちは皆孤独になる。不安定に揺られながら、一人になったチュンバを乗せて、バスは行く。印象的なラストが、喧嘩でしか自己表現できない男の切なさをいっそう際立たせている。