ガキ帝国


ガキ帝国 [DVD]

ガキ帝国 [DVD]


 オイラの勤務校の演劇部が県大会で上演する作品に、ブラッシュ・アップを施す関係で、ある種の映画を何本か参考のため見る。結末に触れています。


 「ガキ帝国」は、1981年に公開された。1975年ころからピンク映画を撮っていた井筒和幸監督の初の一般映画にして出世作。1981年キネマ旬報日本映画ベストテン第7位。時は1960年代後半、大阪・ミナミを舞台に、喧嘩にあけくれる不良少年たちを描く。島田紳助松本竜介趙方豪升毅上岡龍太郎


 先日紹介した「爆烈!アナーキー日本映画史 1980−2011」にはこうある。「独特の顔の人ばかり登場し、大阪弁と在日の言葉が飛び交い、ペチペチと乾いた音が妙にリアルな殴り、頭突き多用のケンカ、今までにみたことのない要素ばかり」「はじめて観たとき、セリフ半分は何言っているのか聞き取れず、それがより異様に感じて映画にカツアゲされているような怖さもあった」「東京のぼんやりした僕ら男の子に、大阪の不良の生態を見せつける「野生の王国」であった」(花くまゆうさく


 異文化としての大阪パワーの強烈さに、理屈を越えた衝撃が感じられる紹介文である。公開当時、この映画がいかに人々にインパクトを与えたのかが伝わってくる。何と言ってもヤンチャな登場人物たちの魅力的なこと! 吉本興業の若手漫才師だった島田紳助松本竜介の起用がドンピシャリ。素の延長線上にあるとしか思えない、土着の関西人そのものといった荒削りで強烈な存在感。ラスト近く、竜介の死に号泣する紳助の場面の強烈なエモーションの強さには、何度見ても涙を誘う。加えて趙方豪の、ちょっと孤独の影のある、くすんだ感じのリアルな佇まいも魅力的。



 ストップモーションに「〇〇くん 〇〇高校退学処分」と字幕を入れるのは、「仁義なき戦い」のパロディ。延々と繰り返される喧嘩シーンはカットを割らず、じっくり見せる。予算はわずか1000万円。日活ロマンポルノの平均製作費でさえ3000万円の時代。撮影は当然大阪ロケ。画面の端々に映りこむ大阪の街や行き交う人々が、猥雑で何とも言えない雰囲気を醸し出す。1960年代後半の流行語や風俗が飛び交う。紳助の「絶対真空飛び膝蹴り決めたんねん」などというセリフが妙にはまっていてリアル。


 後年井筒和幸は自己模倣した作品を作品を何年かおきに何本か作る。「岸和田少年愚連隊」(96)はその一本。吉本興業の漫才師を使い(ナイナイ)、大阪を舞台にした不良少年たちの物語と、作品の成り立ちまで共通だ。だが「ガキ帝国」と比べると、紳助・竜介趙方豪の個性の問題か、時代のせいかははっきりしないが(おそらくその両方だろう)、「ガキ帝国」の方が、粗削りだが、はるかに尖っていて鮮烈な印象を残す。「パッチギ!」「ヒーローショー」の原点はここにある。


 また本作は在日朝鮮人をきちんと描いた初めての映画としても画期的だった。趙方豪在日朝鮮人の青年の役柄で、映画の中で朝鮮語を喋る。在日朝鮮人の立場の違いを描くことで、不良少年たちの問題に、別の次元の階層を加え、映画を奥行きの深いものにしている。


 そして、何よりも印象深いのは、ラスト。有名な「ビール一本」というセリフ。見事すぎる鮮烈な終わり方。暴力衝動に正直で、遮二無二喧嘩に明け暮れる「青春」をストレートに描いた、エッジの効いた名作中の名作の一本だと思っている。必見。