黄金を抱いて翔べ



 (結末に触れています)
 これは、ハリウッド映画によくあるような、ハイテクで守られた鉄壁の金庫から、クールに金塊を盗む映画ではない。守衛を鈍器で殴りつけ、何度も金庫をダイナマイトで爆破して強引にこじ開けようとする、生々しく痛みに満ちた反理性の映画である。


 息苦しくなるほど、タナトス(死の衝動)に満ちていることに驚く。ギャンブル依存症自傷行為を繰り返しヤクザ相手に自暴自棄に立ち回る弟(溝端淳平)などは、まさにタナトスそのもの。また、金塊強奪に執着する北川(浅野忠信)をはじめとするメンバーも、計画実行は粗雑で荒っぽく衝動的である。ダイナマイトを奪う場面でも、輸送車の前でわざわざ車を転倒させる必要などないのである。彼らにとって、計画がバレるバレないなんて気遣いは二の次、幸田(妻夫木聡)が重傷を負っていても計画変更はないし、アルコールラッパ飲みだし、登場人物たちが破滅に向かって一直線に疾走しているように見えた。


 クライム・ムービーとしての爽快さなど微塵もなく、重苦しさが映画全体を覆っている。冒頭で幸田が語る「人間のいない土地に行きたい」というセリフ(ラストでこの場面は繰り返される)が、死への衝動を暗示する象徴的なセリフとして機能している。幸田とモモ(チャンミン)の暗示的な同性愛(ご丁寧にもモモが女装する場面まである!)もしかり。暗部を撮ったときの、ざらざらとした荒々しいフィルムの質感が、やけに印象に残る。


 また、メンバーは犯罪を隠さない。普通のオバさんと普通に顔をあわせるし、ラスト、幸田の死体を川に流す場面も、堂々と行う。日常的な場面のすぐそばに、こうした行為や衝動がごろりとむきだしになっている。こうした大胆不敵な描写こそ、舞台である大阪の街を知り尽くし、タナトスをフィルムに刻みつけてきた井筒和幸の面目躍如である。


関連エントリー井筒和幸作品のレビュウ


■[映画]ガキ帝国
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120901/1346532501
■[映画]ガキ帝国(のラストについて)
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20121019/1350599050
■[映画]岸和田少年愚連隊
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120902/1346623669
■[映画]ヒーローショー
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120903/1346798318