高橋秀実「はい、泳げません」新潮社


はい、泳げません

はい、泳げません


 先日言及した成毛眞「面白い本」で紹介されていた。掛け値なしに面白い。一気に読んでしまう。


 泳げない「私」がスイミングスクールに通って悪戦苦闘の結果、泳げるようになる話である。それだけの話といってしまえばそれだけなのだが、泳げない主人公の、頭によぎる、大真面目な哲学や理屈がおかしい。


 オイラは「私」の気持ちがよくわかる。実はオイラも泳げない人だった。小中学校のときは、夏のプールの授業のことを考えると、半年くらい前から憂鬱になった。プールはあまり好きではない。とくにクロールは今でもダメである。クロールが出来ないと、泳げると公言できないような雰囲気がプールにはある。自由形と言いながら、全然自由じゃない。


 理屈によって身体が縛りつけられ、ますますドツボに陥っていく。何も考えないことをただ楽しめばいいのに、頭で考えてしまう。泳げないとは、つまりこういうことかと実感できる。アタマが身体を支配している状態。立ちすくむ感じ。それは演技にも通じている、と読みながら普段オイラがやっている演劇のことを思う。宮沢章夫の作品にも通じる味。いろいろ触発される。これは優れた身体論の本とも言える。


 コーチのちょっとした指摘がオイラにはとても興味深い。「手のひらを右に向けてください」とこれだけで、体が右に開き、ラクに呼吸ができるようになる。ああ人に教えるというのは、こうでなくっちゃいけない。今度試してみよう。オイラは、こうした「気づき」ができているだろうか。


 泳ぐことが哲学であると実感できる本である。いろいろな面で参考になる。ノンフィクションに分類されているが、小説としても読める。いや、本当に「面白い本」でした。